ゲームのチュートリアルを作る際にヒントになりそうな指標を記す。チュートリアルを考える時、その取っ掛かりとしてあらゆる提示情報を
「プレイヤーが知っているもの」
「プレイヤーが自発的に試すもの」
「こちらから提示する必要があるもの」
の3つにフェーズ分けして考えていく。
プレイヤーが知っているもの
- ゲームのごく基本的な入力の方法(コントローラの存在や、タップの存在)
- 現実世界に即した基本的な物理や常識的なモノの挙動
- ごく基本的なゲームのお約束
- ゲームジャンルにおけるお約束→プレイヤーによって大きく異なる
- パッケージや宣伝文句に書いてあるゲームの目的・コンセプト
ゲーム要素についてプレイヤーが知っているものはプレイヤーによってまちまちである。ただし、ゲームを一度も触ったことがない人があなたのゲームに触れる可能性は低く、最低限のゲームのお約束、すなわちボタンは押せるもの、プレイヤーキャラは十字キーで移動する、程度のものは期待できそうである。コアゲーマーを対象としているなら、ゲームジャンルをRPG、ADV、ACT、STGなどと説明するだけで、ある程度の操作体系を理解してくれることがある。一方で、カジュアルゲーマーにはフリックのやり方から説明する必要がある。
また、どんな横スクロールアクションゲームでも「このゲームには重力が存在する」と説明しているものが無いように、現実世界における常識は説明せずともプレイヤーは意識しており、多くの場合それらは省くことができる。★のように色や音による本能的な棲み分けを利用するのも手である。
なお、ゲームの詳細について紹介文やトレイラーで述べている事柄については期待できないが、繰り返し使うようなキャッチコピーや宣伝文句程度は覚えてくれているだろう。
プレイヤーが自発的に試すもの
- あらゆる入力。特にコントローラが存在するプラットフォーム。
- ゲームが進行する可能性のあるあらゆる行動
- 目につく場所(モニュメント)への移動
- キャラクターへの攻撃や話しかけるなどのアクション
- 標識や看板などガイドに沿った行動
- ★現実世界に即した因果関係
チュートリアルにおいて最も重要なのは、プレイヤーが自発的に試す可能性のある要素、または容易に理解してくれる要素を尊重し、できる限りそれを増やしていくことである。こうして習得した操作は忘れがたく、モチベーションを低下させにくい。
ヒントは、現実世界に即した因果関係はプレイヤーが自ずと試す可能性があるということである。蛇口を捻れば水が出る。風船を撃てば割れる。レバーを倒せばギミックが動く。炎や氷は何らかのアクションを引き起こしそうだし、矢印の看板の方向には何かがありそうである。つまり、ゲームシステム側がそもそも必然性のある仕組みにすり寄る必要がある。これを応用すれば、遠い所にある高い塔には行ってみたくなる、書き込み密度の高い建物には入りたくなる、といったようなユーザの誘導も可能だ。
なお、スマホの操作はコントローラーと違ってより自発的な試行を期待しにくいので注意。また、カジュアル層向けのゲームは明らかにわかる動作でも画面上で一言添えておくのが安心である(任天堂のゲームが参考となる)。
提示する必要があるもの
- ゲームの目的
- ゲームを次の段階に進行させる方法
- 自発的に試す可能性の低い複雑な操作
- 特定の場所でボタンを押すようなもの(扉の開閉など)
- ボタンを組み合わせたり、自機の状況が限定されたコマンド(壁ジャンプなど)
- その他ゲーム内の説明が無ければ理解し難い要素
ゲームの目的はできる限りプレイヤーにとって自然な形で、しかし演出なり描写なり文章なりで示す必要がある。ただし、チュートリアルにおいてゲーム側がわざわざ提示するものは極力最小限であるべきである。
なぜなら、提示しなければならない=プレイヤーにとって不自然な要素は理解に負荷が掛かり、覚えにくいものであるため、同様の操作が何時間か経った後に再びゲーム中に出現したとき、すっかりプレイヤーはそれを忘れているからである。
どうしてもそれが必要な場合、繰り返し反復練習させたり、その幾度自然な形で説明する必要があるだろう。あまりにもこのケースが多い場合、ゲームの作りの悪さを疑った方が良い。
チュートリアルの表示の仕方
- シーケンス内で強制的に提示するもの
- シーケンス内でプレイヤーを強制的になぞらせるもの
- ヒントボックスを置き、ユーザが任意で起動できるもの
- あるいはチュートリアルステージ
- シーケンス内の演出として提示するもの
- ステージ上に描画するもの
- それが必要なケースでUIに付随させ常に表示させるもの
- ゲーム外マニュアル
多くのソーシャルゲームは特定箇所のみをタップできる制限を施した上で順番に操作をなぞらせるチュートリアルを採用しているが、この有効性については誰か検証し論文を書いて欲しい(思うに、このチュートリアル形式は習熟性が低く、いざその操作が必要となった時プレイヤーが覚えていないのではと思う)*1。
優れたチュートリアルはチュートリアルの存在そのものを意識させない、との格言にあるように、シーケンス内の演出として提示され、プレイヤーがゲームに導入されていく段階で自然と習熟させるものが優れたチュートリアルであることは言わずもがなである。
また、コントローラのほぼ全てのボタンを使うようなコアゲームではUIにボタンアイコンが付属する形式が避けられない。この方式のチュートリアルは、移植時にしばしば足枷となる。
チュートリアル作成の手順
- そもそも、チュートリアルの存在そのものが望まれないものであるということを念頭に置く。
- チュートリアルが必要となるような要素そのものをまず削減する。
- 使用するコントローラのボタンが不必要に多ければ最小限にする。
- ボタンの組み合わせにはゲームジャンルによるある一定のテンプレートがある。ゲーマー向けのゲームはそのテンプレートに合わせたほうが理解が早い。
- 直感的に理解しにくい表現を用いるものは、より理解しやすい表現に調整する。
- プレイヤーが「自発的に試す可能性があるもの」を最適化し、極力提示する要素を削減する。
- プレイヤーが自発的に試すものは、わざわざ提示する必要がない。ステージや敵、ギミックの作り方によって、自然と学習させることが可能。
- 発見も楽しみの一つである。*2
- 初見のプレイヤーにテストプレイしてもらうことは、大きな効果がある。
- その上でどうしても提示しなければいけないものは、シーケンス中の演出やUIに埋め込み、プレイヤーに繰り返し提示する。
- また、それらは一度に全て提示するのではなく、ゲームの進行において段階的に提示すべきである。
- つまり、チュートリアルにおける問題はチュートリアルだけのものではなく、ゲーム全体に関わる問題である。
チュートリアルのジレンマ
→早い段階でコア部分を仕上げ、ゲームのルールが初見プレイヤーに伝わりやすいかどうか繰り返しテストすべし。
まとめ
- ゲーム内のあらゆる操作・挙動に関する情報を「プレイヤーが知っているもの」「プレイヤーが自発的に試すもの」「こちらから提示する必要があるもの」に分別する
- 提示する内容を削減し、またその方法を工夫することでプレイヤーのモチベーションを低下させないよう留意する。
以上を踏まえた上で、具体的な事例を上げた実践的な解説をB面でどうぞ。