「ランクマッチ」に蔓延る4つの勘違いと最適解の考察

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 ランクマ。いまやどんな対戦ゲームにも実装されている、インターネットを介した対戦モードの一つである。その呼び名はゲームによってランクマッチ、ランキングバトル、レーティングバトル、ラダー、段位戦など多岐に渡るが、要は対戦の結果によって対戦相手とポイントを取り合い、モノによってはポイントに応じて段位階級が与えられるというゲームモードのことだ。総称が無い以上仕方ないので、この記事では一番メジャーな呼び名であるランクマッチを便宜上採用する。

 ランクマッチはどんな対戦ゲームにも当たり前のように実装される一方で、ゲーム開発者がこのシステムについて完全に理解しているとは言い難い。ランクマッチはヘビーユーザのために用意されたシステムで、その真価を理解するには同じゲームを数ヶ月間、何も知らない初心者から最上級者になるまで遊び続けなければならないからだ。日常的にゲームを遊ぶ開発者すら割合としては少ない昨今、一つのゲームをここまでやり込み、そのシステムを肌で理解している開発者はごく僅かに過ぎない。

 断言しよう。殆どのランクマッチはクソである。ランクマッチを実装している開発者がランクマッチのことを理解していないからだ。

 一方で、ようやくランクマッチにも主流と呼ばれる一つの解がいくつかのゲームで見られるようになってきた。この記事ではランクマッチを理解していない開発者がランクマッチを実装したときに起こりうる四つの勘違いと、生まれつつある最適解の一端を考察していく。

そもそもランクマッチの意味とは

 ランクマッチをゲームに導入する意味は大きく分けて二つである。

  1. 自分の現在の実力を可視化し、ゲームプレイの動機とする。
  2. 近い実力帯の相手とマッチングすることで、均衡した対戦を提供する。

 裏を返せば、プレイヤーの向上心を刺激せず、ゲームプレイの動機とならないランキングシステム、或いはマッチングの実力分布が最適でないゲームは、ランクマッチである意味がないということである。

ランクとは

 ランクマッチにおけるランクとは、実力に応じた階級のことである。ゲームによってそれは段位であったり、レベルであったり、ゴールドやプラチナというシンボルであったりとゲームによって表現は違う。レーティングバトルなど、そもそもランク形式を採用していないものも多い。実力が伸び、次のランクへ上がることを昇格と言い、一方で負けが込んで下のランクへ落ちることを降格という。

 

1:レートや順位はカジュアルユーザには馴染まない。

 チェス等で古くから用いられているレーティングは、プレイヤーの強さを数値で表し、対戦によってそれを奪い合うものである。高いほど強く、高い相手に勝つほど多くのレートを奪うことができるため、レートはプレイヤーの強さを正しく表しやすい。
 数式は wikipedia載っているし、サーバに数値一つを記録すればよいので実装が簡単な故、適当にこれをポンと入れておくだけの対戦ゲームも多い。*1

 しかし、レーティングはあくまでプロ用のものである。レート2000が上級者、と言われてもカジュアルなユーザには直感的ではないし、この数値はゲームやそれをプレイする時期によって刻一刻と変わっていくので、競技者以外に伝わりづらい。
 他にも、レーティングシステムは公平ではあるが、上がった時の感動が少ない割りに下がった時のショックが大きく、100%実力が反映されるチェスと違って運負けしたときの納得のいかなさがプレイヤーのストレスとして積もってしまう。

 よって、今のトレンドとしてはレーティングよりランクが採用されることが多いようだ*2。ランクという大きな枠でシステマチックな部分を隠し、大きな節目には昇格戦や降格戦でユーザのストレスが少なくなるよう下駄を履かせてあげるのだ。
 順位に関しても同様で、大多数の何万何位のプレイヤーにとって順位とはどうでもいいものであり、最高ランクの中でのみ競わせたり、地域やリージョンによって区分けしてローカル順位を表示するといった形が主流となっている。

 

2:降格がなければ実力を測れないとは限らない

 ランクを設定するとどうしても昇格の対として降格を用意したくなるが、慎重になるべきである。降格というのは非常に強いストレスであるからだ。
「一つの階級には正しく近しい実力のプレイヤーが集まるべきであり、実力の低いプレイヤーは即ち降格すべきである。」……果たして本当にそうだろうか。

 ゲーム勘がありの有無、コツを掴むのが上手い人・下手な人という差こそあるが、基本的にプレイヤーの実力プレイ時間に比例する。極端なことを言えば、決して減ることのない経験値ポイントのようなものでマッチングを振り分けても、ある程度の適正さは出るのである*3
 もちろん完全に降格をなくしてしまうと一番上のあたりで詰まってしまう(=マッチング分けが機能しなくなる)のでそうはいかないが、ゲームプレイを純粋に楽しみ、20時間に満たないプレイ時間で満足して去っていくカジュアルユーザを考えると、下から数えて七割程度の階級は降格なし、としてしまってもさほど問題はないだろう。

 余談だが、一方で降格戦というのはプレイヤーにとって非常に“燃える”展開でもある。背水の陣って奴だ。降格防止に大きく猶予を与えつつ、条件を満たすとゲージを大きくリセットする……みたいに降格を利用するシステムは一考の余地アリかもしれない。

 

3:フィフティーフィフティーの勝率は望まれていない

 これは多くのゲーム開発者が勘違いしていることだが、ほぼ全てのプレイヤーは「バランスが取れた試合」を望んでいない。(これは、主にチーム戦の話だ)
 プレイヤーは「バランスが悪いせいで自分が負ける試合」を無くして欲しいと懇願しており、更に言うなれば「ギリギリ均衡しているように見えて最終的に自分が勝てる」試合を切望している。みんな勝ちたいのだ。それも、圧倒的にではなく、少年マンガのように死力を尽くした上で。

 ところが、しばしばお節介な開発者は同じランク間でもマッチングした2つのチームの実力差をできる限り均等化するために、強いプレイヤーに弱いプレイヤーをくっつけて調整してしまうことがある。すると、連勝したプレイヤーは神の見えざる手によって勝率を 50% まで叩き落されるべく、連敗し始める。先の連勝の記憶より直前の連敗の記憶の方が印象に残るのは当たり前だ。
 実際の所、本当にそのランク帯で強いなら勝率は51%~55%で留まるのだが、それでも連敗を招いた神の見えざる手の力がどうしても頭をよぎってしまい、プレイする気力が削がれてしまうのである。

 放っておいてほしい。所詮ゲームなのだから、ランクによってなんとなくプレイヤーを振り分けたのなら、あとは余計な介入をすべきではない。全てのプレイヤーが勝つことを望んでいる以上それは絶対叶わぬことなのだから、せめてその矛先がゲームそのものに向かないよう配慮すべきである。

スプラトゥーンで連勝した後連敗するジンクスはどのように生まれるのだろうか。スプラトゥーンでは直近50戦の勝利数-敗北数が内部で記録されており、この数値がある程度バランスよくなるよう8人のプレイヤーが選ばれる。マッチング毎の内部数値を見る限り、高いプレイヤーのチームに低いプレイヤーをあてがうということは実際あまりしていないようだ。

なら、何故このようなジンクスが生まれるのだろうか。恐らく、長時間プレイして集中力が欠け、だんだんと調子が悪くなるにつれてバランスマッチングされた弱い味方が浮き彫りになっていくのだろう。相手のチームも同じように強い人・弱い人が混合しているものの、相手チームの(数値上)強い人は疲弊しているとは限らないため、戦力差が生まれてしまうのである。

結論として、あくまで外野からの意見だが内部数値でゴニョゴニョするのはやめたほうがいい。ランクのみに因るマッチングで実力差がつきすぎるようなら、そもそもランクシステムが上手く働いていないだけだ。そちらを見直したほうがいい。

 

4:ランクマッチをするプレイヤーはマジョリティではない

 インターネット上の SNS やブログを見ていても、ゲーム内容や対戦バランスについて呟いているのは大体ネット対戦を100時間単位で遊ぶヘビーユーザばかりなので麻痺しがちだが、ランクマッチを遊ぶプレイヤーは実のところごく僅かである。

 殆どのプレイヤーは一人用モードを遊んで満足するか、友達や家族とオフラインでの対戦モードを楽しんだり、仲のいい友達とボイスチャットをしながらフリーマッチをプレイするのがで、プレイ時間も10時間に満たない者が大多数である。ランクマッチに一人で黙々と潜り込み、階級をあげていくことを楽しむプレイヤーは少数派なのだ。

 どれほど少数派かというと、マリオカートのようなネット対戦もできるパーティーゲームで約一割CODGTA のような濃厚なキャンペーンモードに付属しているマルチでは 1~2% が関の山だろう。インターネット対戦を主軸とし、一人用モードはオマケ、なんてゲームでも三割程度に留まる。*4

 開発者は、そのことを念頭に置かなければならない。ランクマッチにリソースを割きすぎて、もっと根本的なユーザビリティの部分を置き去りにしていないだろうか。本来選択肢の一つであれば良いランクマッチを不必要にユーザに押し付けていないだろうか*5。開発者はインターネット対戦のバランスより、尖ったキャラクターたちの持つ魅力を優先すべきだし、堅苦しく競技性の整ったものを造るより、エンターテイメント性に富んだ大花火を打ち上げてやろうという魂胆でゲームを仕上げるべきである。

 

主流となった一つの解:シーズン式ラダー&ランキング

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 さて、ここにきていくつかの著名なゲームで一つのランクマッチ方式が主流となりつつある*6。それが、シーズン式ラダー&ランキングだ。

 ラダーはランクと読み替えてよい。基本的な構造は一般的なランクマッチと同じで、実力に応じてプレイヤーには何段階かの階級(ランク)が与えられる。階級は20段階程度に分けられるか、6段階程度に分けられた後、同じ階級内でいくつかのレベルに分割される。特徴的なのは最高ランクに到達した後、プレイヤーは唐突に順位を与えられ、最高ランク内で競い合うランキングバトルに発展することだ。これを、シーズンと呼ばれる一ヶ月~数ヶ月の期間ごとに行い、シーズン終了と共にリセットする。これがシーズン式ラダー&ランキングである。

ランキング

 上の方で順位はカジュアルユーザには適さないと述べたが、最上位プレイヤーにとっては別だ。天井が設定された最高ランクにおいて、ゲーム稼動直後と一年後では全くプレイヤーレベルの平均が違う。その天井を取っ払ってしまおうというのが最高ランクにおけるランキングバトルである。この形式なら、ランキングの近いもの同士で永遠にレベルの高い対戦が行えるし、最上級ランクに到達した後もプレイヤーは更なる高みを目指すことができる。

 ランキングは内部ポイントの争奪で決まるが、即ち自分がプレイしていない時にも順位が変動する可能性があり、一位を維持し続けるのは難しい。この点も、一つの落とし所として次に述べるシーズンが一役買っている。

シーズン

 シーズンのもたらしたものは偉大だ。ユーザの実力は基本的には上がり続けるし、古いユーザは上に溜まったまま去り、新しいユーザはどんどん現れるので、階級もランキングも稼動から数ヶ月すればその仕組みの中でだんだん淀んでいく。

 そこで、一ヶ月ないし数ヶ月をシーズンとして区切り、記録を全てリセットしてしまうことにした。これは一見すれば今まで積み上げたものが無になってしまいプレイヤー達の反感を買いうるものにも感じるが、意外と彼らは自分の培ったプレイヤースキルからまたすぐ適切なランクに到達できることを理解しており*7、かえってリフレッシュした気分で新たなシーズンでのゲームプレイを楽しめるというプラス効果が生まれている。

 また、対戦環境が変化するゲームにおいてシーズンというのはプレイヤーにも開発側にも好都合だ。プレイヤーはシーズン単位で環境を記録しておくことができるし、開発者は新要素をまっさらなシーズンで試すことができる。

デメリット

 ただ、このランクマッチ方式も万能ではない。数ヶ月単位のシーズンということは、少なくともこのシーズンが数を重ねるほどゲームを継続して稼動させる必要があるということである。すなわち、継続的なアップデートや新要素の追加など、ユーザの興味を引き続ける必要があるということだ。シーズン毎に階級や順位に応じてささやかなプレゼントを用意するゲームも多いが、ポケモンのようにしれっと新しいシーズンを開始するゲームもある(ただし、ポケモンは一年~二年毎にまるっと新作が出るという状況だ)。

 遊びきりのゲームに付属したオンラインモードや、パーティ要素の強いカジュアルゲームではそこまで採用する意味はないだろう。久々に遊ぼうとしたらランクがリセットされてやる気を削がれた、そんな風にユーザが感じるようなゲームでは不必要である。

 

まとめ

 以上がランクマッチの仕様に対する現時点での考察である。いずれもまだ明確な解が示されているわけではないし、シーズン式ラダー&ランキングも最適解だと言い切れるほどには歴史を重ねていない。

 実際、色んなゲームを俯瞰して眺めてみると、それぞれが様々な工夫を凝らして独自のシステムを構築していることがわかる。何百時間もプレイする必要はないが、その工夫の真髄を理解できるほどに身を委ねてみるのも経験値として有益なものになるだろう。

  

 今回参考にしたゲーム(一部)

マリオカート8 デラックス - Switch

マリオカート8 デラックス - Switch

 
Splatoon 2 (スプラトゥーン2)  - Switch

Splatoon 2 (スプラトゥーン2) - Switch

 
ハースストーン (Hearthstone)

ハースストーン (Hearthstone)

 
League of Legends (輸入版)

League of Legends (輸入版)

 

*1:もっとも、これさえ無いものよりはマシだったりするのだが。

*2:レーティングを用いる場合も数値は内部に隠し、マッチングの参考に留めるという形が多い

*3:幻走スカイドリフトではこの理屈を元に、減ることの無いポイントでマッチングをさせている。ポイントはゲーム自体がランダム要素の大きなレースゲームであることと、勝利した時のポイントを極端に増やした所である。

*4:ゲーム開始と共に強制的にオンライン対戦に放り込むスプラトゥーンはいかほどなのか、少し気になるところだ。しかしどういうわけか、(高いお金を出して買ったにも関わらず)スプラトゥーンでさえも 100% には達しないだろう。世の中には不思議な需要があるものだ。

*5:例えば、ランクマッチをやらないと開放されない要素は、多くのユーザにストレスになり得る。

*6:恐らくどれかのゲームが発端となりそれを真似たのだと思うが、海外発祥なのでいまいち歴史に関しては掴めなかった。

*7:ただし、あくまでヘビーユーザに限る。言わずもがな。