「いきなりですけどね。うちのオカンがね、オトンの仕事の話しとったんやけど」
「ほう」
「なんか横文字の開発手法がしんどい言うて、でもその名前をちょっと忘れたらしくてね。色々聞くんやけどな、全然分からへんねんな」
「はー、アジャイルとかウォーターフォールとかな、覚えにくいもんな。ほな俺がね、オトンの仕事で使ってる開発手法、ちょっと一緒に考えてあげるから」
「おー」
「どんな特徴ゆうてたかってのを教えてみてよ」
「あんな、なんかめっちゃ偉い人直轄のプロジェクトでな。誰もそのおっちゃんに逆らえんねんけど、言ってることがめちゃくちゃらしいって言うねんな」
「おー。
メテオフォール型開発やないかい。
その特徴はもう完全にメテオフォールやがな。
すぐ分かったやんこんなんもー」
「でもちょっと分からへんのやな」
「何が分からへんのよ」
「いや俺もメテオフォール型開発と思うてんけどな。
スクラムっての組んで小さいイテレーションでプロダクトを回してるらしいねん」
「あー。ほなメテオフォールと違うかあ。
メテオフォール開発にそんな秩序立ったイテレーションないからね。
メテオフォールはね、同じスクラムでもラグビーのくんずほぐれつの大乱闘の方やねんあれ。メテオフォールってそういうもんやから」
「でも、結局偉い人が全部ぶち壊しにすんねん」
「メテオフォールやないかい。
メテオフォールの前ではね、人と人の叡智は無力なのよ。
神の一声で粉々に粉砕された我々のバベルを、何度でも再建するその涙ぐましい人間の努力の物語がメテオフォール開発の本体やねん。
メテオフォールやそんなもんは」
「分からへんねんでも。
俺もメテオフォールと思うてんけどな。オカンが言うには、スケジュールはある程度現場の裁量があるらしいんよ」
「ほなメテオフォールと違うかあ。
メテオフォール開発ではね、全てのスケジュールは天界の都合によって決まんねん。
設計もデザインも何も決まってないのに何故かデッドラインはそこにあるから、
黙示録って呼ばれてんねん。
段々終業のチャイムが天使のラッパに聞こえてくんねんから」
「でも、結局その偉い人が現場に来てあれこれ口出しするから、効率下がるらしいねん」
「メテオフォールやないかい。
あいつらは大体現場に来ては好き放題かき回して帰っていくんやから。
ソフトウェア開発においてシルバーバレットなんてものは夢物語やけど、その逆は存在すんねん。
ラピュタの雷ボタンでビーマニしとんねんあいつら。
メテオフォールや絶対」
「分からへんねんでも、俺もメテオフォールやと思うてんけどな、意見はちゃんと聞いてくれるらしいんよ」
「ほなメテオフォールちゃうやないかい。
メテオフォール開発においてね、神とは基本対話なんかでけへんのよ」
「でも大事なことは殆ど届かんらしいねんけどな」
「やっぱりメテオフォールやないかい。
神にフィードバックは届かないんよ。
ただし所定の手順を踏んで正当に捧げる祈りだけは稀に届くらしいねん。
その祈りが上手い人から順番に会社ってのは出世していくんやから。
大体宗教と同じやねん。
えーほなもうちょっとなんか言うてなかったか?」
「なんかな、その偉いおっちゃんも厄介なんだけど、最近販売の偉い人もよう来て、正反対のこと言って帰っていくらしいねん」
「ラグナロクやないかい。
あのな、神が一人の間はそれでもまだマシやねん。
問題は神が二人以上居るケースやから。あいつらは現場に来て全く異なる啓示を下して帰っていくんよ。
我々民は神々の戦争に巻き込まれるしかないねん」
「でな、あんまり進捗が進まないから、本社の方からもっと偉い人が来て、プロジェクトまるごと引き取るとか言うてるらしいねん」
「ジハードやないかい。
混沌としたラグナロクの果てには全てを吹き飛ばす新たな神が待ってんねん。
しかも不思議と新たな敵が現れるとこっちは神を筆頭にどこか団結すんねん。突然聖戦みたいになるんやから。その団結力もっと最初に発揮しとけって話やでほんま。
もう完全に末期やがなそのプロジェクト。大丈夫かお前のオトン?」
「あ、でもな。この間そのプロジェクトの発表が、勝手にPRイベントで出てたらしいわ」
「メテオフォールやないかい。
メテオフォール開発のプロダクトは、大体勝手に情報が出るのよ。
しかもそこで社長さんとかがつい口を滑らして、新しい仕様が生まれるのよ。
我々はポカンと液晶越しにそれを眺めてるしかないんよ。受けても全く心の休まることのない預言やけどな」
「でも分からへんねん」
「分からへんことない。お前のオカンが聞いた開発手法はメテオフォール開発もぉ」
「でも偉い人が言うにはメテオフォールではないって言うねん」
「ほなメテオフォールではない……わけあるかい。
メテオフォールという言葉を知ってるのになんでメテオフォール作ってんねや。
メテオフォールは、みんなの心の中に一つずつあるんや。
笑っとる場合ちゃうで。お前の話やお前の。ほんま。
どうなってんねんもう」
「んでオトンが言うにはな」
「オトン?」
「いつもこれやって言うねん」
「オトン苦労してんねんな。もうええわー」
「「ありがとうございましたー」」
元記事とか