ゲームプランナーの仕事とは。 - そして、どこから来て、どこへ行くのか?

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 ゲーム会社の開発職には大きく分けて四つの職種がある。プログラマーデザイナーサウンド、そしてプランナー*1。しかし、プランナーというのはかなり大雑把なもので、実際の作業としては前から三つの職種が担う作業以外の全てをカバーすることとなる。

 ゲームプランナーが具体的に何をする職業なのか。外から見ているととても分かりにくい割に、企業の募集には平気でプランナー枠があったりするので、これからゲーム業界を目指してみる人、転職しようと思っている人、あるいはゲーム業界に勤めているけど隣の席のプランナーが正直何をやってるかわからない人のために説明したいと思う。

 なお、ぼくはコンシューマ業界の人間だったので、ソーシャルゲーム業界の会社とは多少勝手が違うかもしれないが、適宜補足してほしい。

 

何してんの?

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新規企画の立案

 プランナーといったら企画だろう! と思っている人は多い。確かに、何もないゼロの状態から新規の企画を立案・提案するのもプランナーの役割だが、自由奔放に「俺の考えた最強のゲーム」をプレゼンできる機会が与えられるかといえば決してそんなことはない。ゲーム企画というのは大抵我々が目視することもできない天上の世界から降ってくるか、さもなくば「このネタ・この題材でとりあえず面白いゲームの企画を考えてこい」という最初から縛りプレイ状態でひねり出させられるかのどちらかである。

 稀に体力があるゲーム会社だと「次回作開発プロジェクトを行うので、みんな自由にアイデアをもってきてください」なんてケースが存在するが、みんなとは他の職種も含めたみんなであり、プランナーの特権でもなんでもない。そして大抵、動くモックアップを作れるプログラマーか、息をするようにコンセプトアートキャラクターデザインを出せるデザイナーの方が有利である。

仕様・シーケンスをまとめる

 プランナーのメインの仕事は一応これである。上から降ってきた企画や、大雑把なゲームシステムを、実際に実装できる段階の仕様書まで落とし込む。つまり、細かいところはやっといての部分である。

 この実装できる段階というのがクセモノで、時には箇条書きで、時にはシーケンス図で、分かりやすいことは当然ながら、複数の仕様に矛盾があってはならないし、自力で埋められない穴は適宜はぐれメタル並に神出鬼没なディレクターを捕まえて仕様を聞かなければならない。 

 ところで、書くではなくまとめるとした理由はなんだろうか。それは、開発現場におけるこういう要望を叶えるのもプランナーの仕事だからだ。

  • リソースの一覧を自動更新してくれるページが欲しい
  • 外部開発会社とデータをやりとりするための掲示板が欲しい
  • バグ報告掲示板がほしい

 勿論自力で実装できない部分はプログラマーに依頼することとなるが、その依頼もプランナーの仕事である。開発環境全般を担い、あとの三職種が「作る」ことに専念できる体制を作る。いわば雑用これがプランナーの仕事である

各職種の橋渡し(○○窓口)

 プランナーがあちらこちらを走り回る所以となるのがこの橋渡し業務である。プランナーは仕様を作れば終わりというわけではなく、できあがった仕様をタスク化し、仕事として振り分けるところまで面倒をみなければならない。

 プロジェクトのシステムがきちんと機能していれば、実装タスクであればプログラムリーダーに、デザインタスクであればデザインリーダーに直接話し、タスクを渡していくというのが通常の流れだ。が、往々にして上手く回っておらず、末端のプログラマーとデザイナーの間を何往復もして一つのシーケンスを作っていくなんてことが常に起こる。加えて、時折光臨する神*2の御言を仕様へと解釈し、それがいかに突飛なものでも筋を通してタスク化していくのもプランナーの仕事である。

 その他にも、担当者が必要となるあらゆる箇所にプランナーが駆り立てられる。いわゆる窓口──いや、もはや神に使役される妖精である。やや、そこにおわすのは掲示板の精。どうかあなたの仕える神にこの訴えを届け、サーバーエラーを解決してはくれまいか。シーケンスの精、ツールの精、スケジュールの精、メッセージの精、翻訳の精、デバッグの精。ゲームプロジェクトは沢山の妖精のおかげで成り立っているのだ。

(もとい、一つのプロジェクトにプランナーは複数人いるが、その振り分けは概ね以上のようになっている。もっとも、シーケンスの中で更に分けられたり、いくつかを兼任したりするのが実際だ)

マップ作り / データ作り

 プランナーの中で最もクリエイティブな作業がマップ・データ作りである。マップとは所謂ステージのことで、アクションゲームのレーシングゲームコースRPG街やダンジョンシミュレーションゲーム盤面などがそれにあたる。もっとも、デザイン部分はデザイナーが作るので、プランナーが作るのはステージギミックや敵の配置など、遊びの部分である。

 他にも、デザイナーが用意したマップチップを組み合わせて細部を作ったり、コースのモックアップを簡易なモデルでテストしたり、プログラム側から読み込むためのマップデータ(敵の出現位置や、ゴール位置、コースラインなど)を仕込んだりするのもプランナーの仕事になる。

 ディレクターが言った「このブキはこんな感じの強みがあって~~」みたいなぼんやりした仕様を実現するために、実際の射程や威力、燃費などをパラメータで設定するのもプランナーの役目だ。当然、設定したら終わり、ではない。組みあがったROM*3を何度もテストし、少しずつパラメータを弄ったり調整して、ディレクターやチームの人間に意見を伺い、そうしてやっと作り上げるのがデータである。……と言われると雑用のようにも思えるが、これは正真正銘もっともゲームの面白さに関わる部分だし、苦心して作ったマップやゲームパラメータがユーザに遊び尽くしてもらうというのはクリエイターとしてこの上ない喜びになるだろう。

テキストの作成・管理・翻訳

 ゲームにはたくさんのテキストが必要になる。ストーリーや登場人物の台詞は勿論、メニュー画面、コンフィグ、ゲームUI、チュートリアル、技名や能力解説、設定など、その殆どはプランナーによって作られる。現場によってライターシナリオデザイナーなど区別されていることもあるかもしれないが、それでも細かなテキスト作業はプランナーにのしかかってくる。*4

 ゲームにおいてはテキストは書けばいいというものではなく、簡単に他の言語に切り替えられるようにゲーム本体とは別の場所に置かれたり、ライターや翻訳者が編集しやすいように専用の編集ツールがあったりする。あるいは、<登場人物の名前>のようなゲームプレイによって変化するタグも提案し、実装を依頼し、一覧性を確保しなければならない。そういった環境の管理もプランナーの仕事だ。

 加えて、テキストに翻訳が必要となったとき、翻訳チームの窓口は誰がやるべきか? そう、あなたである。一度テキストに関わったが最後、あなたはテキストの精としての役割を全うせねばならないのだ。

デバッグの取りまとめ

 ゲームができあがった。さあ、デバッグだ。

 ……なんて順序良く行くことはまず、ない。ゲームの規模にもよるがデバッグは最低でも数ヶ月は必要になるため、大抵の場合開発の終盤に残りの開発作業と並行して行われる。仕様書は? そんなものはない。よって開発 wiki やタスクリストやメールの残骸から仕様を掻き集め、デバッグして欲しい箇所を色んな人に聞きまわり、デバッグの精となってデバッグ会社のリーダーと会合する。

 初回の打ち合わせならあなたの隣にはディレクターがふんぞりかえってゲームシステムの説明やゲームに書ける気概や思いを語るだろう。しかし、そのディレクターさえ正確な仕様は知らない。そう、誰も仕様を知らないのである!

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 ので、あなたが常に最新の情報を知っていなければならない。刻一刻と変わっていくROMの状況を把握し、報告されるバグも把握し、忙しい*5開発チームとデバッグチームの代わりに両方がそれぞれ必要としている情報をせっせと運ばなければならない。ついでに言うと多くの場合この仕事はさして終盤の仕事もない新人に投げられるので、デバッグの精を経由しているプランナーは少なくない。

 

どこから来るのか、そしてどこへ行くのか?

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どうやってなるの?

 ゲームプランナーになる方法は様々だ。まずもっとも手軽で主要な手段としてはプランナー求人に応募するというものがある。新卒のプランナー求人は大抵何枚かの企画書を書かされるが、多くの場合アイデアそのものよりフォーマットの綺麗さや内容に込められた熱意を見ていて、面接で内容に突っ込まれることはあまり無い*6。上で述べたようにプランナー職の仕事の殆どは雑y……雑多な仕事なので、体力と根性があります! とアピールすれば評価されるだろう。

 一方で中途のプランナー求人は殆どの場合業界での制作経験を求められるので注意したい。既卒で一念発起してゲーム業界に入りたいと思っても、プランナーを最初のキャリアパスにすることは難しいだろう。理由は後述。

 一度プログラマーやデザイナーとして入社した場合でも、プランナーに鞍替えすることは可能だ。ひとえにゲーム開発職といっても、ただひたすらにプログラムを書いたり細かなデザインに没頭したい人もいれば、最新のグラフィック技術に興味がある人やアートワークの監修をしたい人もいるし、仕様やシーケンス図、あるいは今までに無いゲームのアイデアに興味がある人もいる。最後の人は普通に仕事をしていてもそのうち、「もう少し広い範囲を見てみるかね」なんて上司に言われて、プロジェクトのうち小さなパートを任されたりしつつ、プランニングに足を踏み入れていく。

 ぼくの場合もまさにそのパターンで、プログラマとプランナーの中間あたりをふらふらしながらやっていきたかったのだが、いつの間にプランナーの仕事ばかり任されるようになってしまった。一度妖精と認識されると、雑用色んな仕事がどっと押し寄せてくる。注意されたし。

 また、他の職種と違って社外で付ける知識より社内で培う経験の比重が大きいプランナー職は、開発職のから異動してくることもある。自分が見た例では、機材環境サポート、プロジェクト進捗管理、翻訳サポート、映像制作グループなどなど、異動元は多岐に渡る。社外とやり取りする役の人がプロジェクトの内部に踏み込んでいった結果いつの間にプランナーに、なんてケースもあった。取っ掛かりさえあれば、意外となれるもんだなあ、なんて思ったものだ。

何になるの?

 プランナーとして昼夜人並み以上に頑張っていると、次第に一つのミニゲーム、一つのシーケンス、一つのゲームパートと任される範囲が大きくなり、ある日「ディレクター、やってみる?」なんて言われたりする。そう、プランナーの先にあるのはゲーム全体のディレクションだ。プランナーたる妖精に対するいわば、ゲーム雑誌なんかで「俺が作りました」風なドヤ顔でアレコレ語ることができる、ディレクターになれるのだ。

 ……が、残念ながらそのチャンスは万人には与えられない。ゲームが完成さえすればいいプランナーと違って、ディレクターはゲームのクオリティを担保しなければならないので、センスがあり、かつチームを的確にマネジメントできる人にしか勤まらないからだ。

 ではあぶれてしまった人はどうなるのか? 言わずもがな、万年ヒラのプランナーである。そもそもなれない人もいれば、一度なったけど戻ってきた人もいる。「この人センスないなー」なんて皆に思われていたり、「人格的に問題がある」なんて陰で言われている人も、なんとなしに声をかけられない。残酷である。そしてこういうベテランのプランナーが普段は諸業務を担当しているため、中途のプランナーというのは即戦力でもない限りお呼びが掛からない。

 プランナーから色々すっ飛ばして社長になったり、事業部に飛んで新企画を立ち上げたり……みたいな変な人もいるが、基本的には一般企業のように自然な出世としてキャリアパスを重ねていけると思っていると、痛い目を見る。

 

まとめ

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  以上がゲームプランナーという仕事の概要だ。これを読んでプランナーを志すもよし、ゲーム会社に入りたいけど何もできないからプランナーにしようなんて考えていた自分を戒めるもよし、普段何やってるかわからなかった隣席のプランナーの苦労を察して栄養ドリンクなど差し入れてあげるもよし、この記事がその一助となれば幸いである。 

 なんにせよ、ゲームの根幹に関われることは間違いないので、修行を積むという意味でも、一度ゲームプランニングの仕事を体験してみるのはいいかもしれない。

 

【第3類医薬品】活參28 50ml

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*1:実際は他にもディレクターとかプロデューサーとかコーディネーターとかいるのだが。

*2:ディレクター・あるいはもっと偉い偉いプロデューサー

*3:ゲームプログラムのこと

*4:そしてひとたびプランナーに分類されてしまえば、たとえあなたがテキストだけを書いていたいと主張してもいやおうなしに他の雑用も飛んでくる。

*5:そう、まことに忙しいのだ。

*6:あくまで自分の経験上なので、ちゃんと企画について見てくれる会社もある。