ゲームをデザインするという行為には大きく分けて2つの種類がある。一つは仕様を足し、アイデアを足し、リソースを足してゲームの面白さを「盛る」ゲームデザイン、そしてもう一つは煩雑な仕様、要らないアイデア、飾りすぎたリソースを削ってゲームの面白さを「絞る」ゲームデザインだ。
盛るデザインの話ですら、あまり表に出てくることはないが、絞るデザインに至ってはそもそもその概念や重要性を理解していない人も多い。
しかし、ゲーム作りをしていくうちにどうも要素がゴテゴテしてしまって、初見で「分かりづらい」と言われたり、複数のゲームパートの結びつきがイマイチスマートでなかったり、似たようで異なるが削れない沢山のパラメータが生まれてしまったりといった経験は誰にでもあるはずだ。
今回はそういうゲーム制作中盤で頭を悩ませる諸要素をいかに切り抜け、ゲームの仕様を「絞っていくか」というお話。
一番楽しいものを大切にする
鬼ごっこをベースとしたゲームを作っているとする。
プレイヤーは警察犬あるいは野良犬となり、ジャングルジムで構成されたステージで縦横無尽に追いかけっこする。警察犬は最初は一匹しかいないが、野良犬を捕まえるたびにその野良犬が警察犬となり、最後の一匹になるまで追い詰める。逃げ切れば野良犬の勝ち、全て捕まえれば警察犬の勝ち。途中で捕まった野良犬も、最後まで全力でゲームをしなければならないデザインだ。
さて、何度かテストプレイをしてみた結果、野良犬は走り回るより隠れている方が有利になるということが判明した。そこで、走る動機を持たせるためにゲーム結果はポイント制とし、野良犬は走る距離に応じてポイントをゲットできるようにした。ちなみに、稼いだポイントはホーム画面で犬小屋の成長に使うことができるので、プレイ動機も兼ねる一石二鳥だ。
すると今度は、警察犬が野良犬を捕まえる行為にもポイントが必要となる。ポイントは幾つが適正だろうか。捕まえた野良犬が稼いでいたポイント合計分、では最初の一匹の警察犬があまりに多くのポイントをゲットしてしまう。いやそもそも、途中で警察犬に変化した野良犬が稼いでいたポイントは? 消えるのか? 加算されるのか?
目に見えて仕様が煩雑になってきたのが分かるだろう。仕様がごちゃごちゃしてくると、考えることが多くなる。シンプルにモノゴトを考えられなくなったときは、ゲームデザイン上の袋小路にいることが多い。
そもそも何が一番面白かった?
このゲームにおいて一番楽しいものは、シンプルな追いかけっこだった。それも、段々警察犬が増え、時間経過と共に難易度が跳ね上がる、その盛り上がりこそが醍醐味といっていい。
そう考えると、やはりポイント制こそが余計なモノだったと言わざるを得ない。犬小屋を成長させる要素は確かに魅力的だが、そういった肉付けの部分はゲームのメインストリームとは切り離して考えるのが得策だ。
そもそも問題となっていたのが隠れている野良犬だったなら、警察犬側に嗅覚レーダーのようなものを足してあげれば、物陰の野良犬は一瞬であぶりだされ、走って逃げるしか無くなるだろう。野良犬が取ると有利になるアイテムをステージ上に散りばめるのもいいが、安全区域やチェックポイント*1を入れるのはやりすぎだ。ゲーム性がまた変化してしまうからである。
こうして、ゲーム本来の面白さは守られ、仕様はスリム化された。既に犬小屋システムのリソースを作り始めていた? 大丈夫、きっと使いまわしも効くさ。*2
そっちに傾けていいのか?
史上初! カードゲームと○○を組み合わせた新感覚ストラテジーゲーム! みたいな文句は最近よく見るが、どちらにメインストリームを置くかというのは重要な課題である。開発者はTCGを楽しんで欲しかったのに、ユーザはRTSをやりたかったので、カードのデッキは一切自分で考えずに上手いプレイヤーのレシピを丸コピする。すると、それらのカードを集めるための道程は一挙に作業化する、なんてことがままある。
ユーザに楽しませたいのは何か。それを常に念頭に置きつつ、下手に二つのゲーム要素が連立したデザインをするのではなく*3、どちらかの要素にゲーム全体が回帰するようなデザインをすることが望ましい。例えば「ツムツムのようなパズルゲームでポイントを稼いで街づくりをするゲーム」よりは「街づくりそのものもパズルゲームになっていて、ポイントを稼ぐと街が作りやすくなる」とかね。*4
ゲームの説明をしてみる
ゲームをインスト*5してみることは、ゲームルールが煩雑化していないか計るための、これ以上ないベンチマークだ。
魔法の女子高生というゲームでは MP が HP の役割を兼ね、HP が満腹度の役割をする。が、初期はもっと複雑で、HP は満腹度であると同時に防壁であり、攻撃を食らうと1ずつ減少する代わりに MP へのダメージを 1/10 程度に防いでくれるものだった。HP が0になるといよいよ敵の攻撃が大ダメージになりピンチとなる。遠隔攻撃が基本のゲームだからこそのシステムだ。
……が、この仕様を一言で説明するのは非常に難しく、HP の意味を初見で理解してくれるテストプレイヤーは(コアゲーマーであっても)皆無だった。加えて、遠隔攻撃が基本のローグライク RPG ではあるものの、出会いがしらの被弾を防ぐことはとても難しく、HP の回復手段が少ないことも加えていたずらに難易度を高くしていた。
被弾を避けるローグライク、というシステムのデザインはとても魅力的だったが、本作で一番面白い所は「魔法を作る」ところであり、それを阻害しかねないこの仕様はカット。MP と HP はそれぞれシンプルな役割を持つこととなった。*6
理解できないシステムほど無駄なものは無い。自分の考えた珠玉のシステムデザインが本当にユーザフレンドリーかどうか試すには、実際にゲームをプレイさせてみるのが一番だ。デジゲー博のように試遊展示ができるゲームイベントに参加してみるのも、とても有益なデータを集められるだろう。
要素は並列よりも掛け合わせ
「このゲームは RPG です。全てのキャラクターと技には火・水・木・土・金・闇の6つの属性があって……」
と企画会議で述べようものなら、必ず「なんでそんなに属性あるの?」と突っ込まれる。「世界観が……」では言い訳にならない*7。陰陽なら2属性、3すくみなら3属性で達成できるし、属性毎に特色を持たせる場合でも4属性ほどあれば十分だ。そもそも、ユーザは属性なんて5つくらいしか覚えられない。
ゲームデザインにおいてパラメータの数が少なくあるべきなのは勿論、パラメータの要素の種類(属性など)も、少なければ少ないほどいい。効果が殆ど重複しているものは当然削るべきだし、二つを一つにまとめられそうなものがあれば、積極的にまとめていく。「それではバリエーションが……」と言うなら、目指すべきなのは並列ではなく、別のパラメータの持つ内容との掛け合わせだ。
例えば、武器の属性が「火・水・雷・風・氷・爆」とあるより、「火・水・雷」属性の武器に、「吹き飛ばす・凍らせる・爆発する」という特色を持たせたらどうだろう。6通りしかなかった武器が一気に9通りになる。武器の射程が「短射程・中射程・長射程」とあればそれだけで27通りだ。何より、ユーザがそれらの組み合わせを想像し、先の展開に期待する仕組みは大いにゲームを盛り上げてくれる。
少ない要素でたくさんのモノを生み出す。このシンプルなシステムは開発者にとっても、ユーザにとっても嬉しい形をもたらすだろう*8。
まとめ
一番楽しいものを大切にする、初心者にやらせてみる、要素を減らして掛け合わせる。言うは易し、行うは難しだが、「絞る」ゲームデザインのヒントにはなったと思う。とはいえ、この記事で上げたモノもまだまだゲームデザインの片鱗にすぎない。紹介しきれていない小手先のテクニックも多々あるし、そもそもぼくもゲームを作り続けながら学習している最中である。
ゲーム作り中盤は多くのプロですら頭を悩ませる現場である。盛ったり絞ったりを繰り返し、スタイリッシュでスマートなゲームデザインを目指したい。
参考文献
3Dゲームをおもしろくする技術 実例から解き明かすゲームメカニクス・レベルデザイン・カメラのノウハウ
- 作者: 大野功二
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*1:野良犬は一定時間内にその地点を一度通過しなければならない
*2:まあ……往々にして使い回しが効かない手戻りが発生してしまうのが現実なのだが。
*3:そうしてもどうせユーザはどちらか一つしか注視できない、らしい。
*4:街づくりによってパズルパートの効率が上がる、だと結局街づくりがサブで作業になるのでもう一歩。
*5:インストラクション。初めて触る人に向けた説明
*6:とはいえ、 HP と MP が従来の RPG と大きく異なる点は正直混乱を招いてしまっているのだが……。
*7:原作があるものは除く
*8:ただしデバッガー、てめーはダメだ。……もとい、組み合わせを増やしすぎるとデバッグがかなり大変になるのでそれだけは注意。