サラリーマン寸感。 - そして、ビジネスというモノについての諸考察

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 えー、この度退職しました。おめでとう自分!
 思う所は色々ありましたが、何より自分のやりたいことに専念したいというのがメインの理由になります。あと寝たい。*1

 

 さて、一度組織というものに所属して抜けると色々見えてくるものがあるわけです。働き方というものがますます多様化する中、サラリーマンに向いている人と向いていない人というものが当然出てきますが、それがすなわちサラリーマンという生き方を選ぶかどうかの判断理由に直結するかいうとそうではなく……。ぼくなんかはまさにサラリーマンに向いてない側の人間でしたが、この五年間で学びも色々あったわけです。

 

 退職を決めたときや、引継ぎを終えて特にやる仕事もなくなった最後の一週間、組織に入って働くということがどういうことか、どういうものをもたらすのか、ひたすら考えてきたので今サラリーマンの人(特にやめたい心が高まっている人)、これから就職する人就職活動真っ最中の人もう内定決まった人、そして転職するか独立するかまさに検討している人は是非読んでみてください。

 

サラリーマンをして得られること

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いわゆるビジネスマナーを体感して習得できる

 社会人として働くと分かりますが、一度ちゃんと社会人を経由したかそうでないかはメール一通で分かります。特にデザイナー。堅苦しい定型文にもそれなりに意味があって、きちんとあて先と署名が記され、依頼の概要や具体的な検討項目などがしっかりしているメールは後の負担を大きく軽減します。

 宗教的な古いマナーは置いといて、上座がどうとか名刺交換がどうとか、色んな細かいマナーは今後の人生で人間と関わっていく限り知っておいて損はないモノです*2。その後崩すにしろ、一度サラリーマンという型にハマっておくことは悪くないと思います。

 

色んな人間がいるということを学べる

 会社には実に色んな人間がいます。あなたが古い会社に勤めるなら、社員のうち半分はセンスの無いおじさんでしょう。センスのある人にとって彼らはどうしても無能に見えるのですが、実は会社にはセンスの無い人がやるべき仕事*3が山ほどあります。真に不幸なケースとはセンスが必要なポジションにセンスが無い人が就くことですが、それは往々にして起こります。このような仕事の性質や人材の多様さは、大きな会社に入って初めて学べるものです。

 おじさんには沢山のバリエーションがあります。技術は殆どないけど人当たりがよく、いるだけでプロジェクトのコミュニケーションが円滑に進むおじさん。優秀だけど部下の仕事まで奪ってバリバリやるおかげで部下が一向に育たないおじさん。肩書きは部長だけどいつもいるのかいないのか分からないしノートパソコンでゲームやってるし階段で新入社員の女子に話しかける時だけ最も笑顔が華やいでいるおじさん。おじさん以外にもドラマでしか見なかった伝説のお局様を見ることができるかもしれませんし、あなたに先輩風を吹かしてきたヤニ臭い先輩がただのサボり上手の給料泥棒だった、というドラマティックな経験を得られるかもしれません。

 

 TwitterFacebook などで人の一面だけを見て切り捨てるのは簡単ですが、会社というものは否が応でも彼らと付き合っていかなければなりませんので、人を見る目も長いものになるでしょう。色んな人間がいるということを知ることはとても貴重な経験です。

 

世間体や実務経験が得られる

 これが学生諸君の思ってる以上にでかいのです。ちゃんとした会社に勤めているという世間体は自慢話以上にクレジットカードの取得や賃貸の契約時に大いに有利になります。何かの手続きに行って会社名を書かされることは殆どありませんが、逆に言えば書かされる時は必ずそこを見られるということです。空欄だとまず通りません。

 そして、今後どういう道に進むにしろ「実務経験」というのは中途でどこかの会社に入る時に必須です。転職サイトの条件によく書かれている三年以上の実務経験ってやつです。

 

 何より、こういう大切なステータスを日本では一度だけ一切のスキルや経験なしに獲得できるのです。新卒チャンスです。新卒で就職できなかったらダメ、みたいなことはよく言われますが、むしろ新卒はボーナスチャンスなのです。

 今後フリー*4になるとしても、サラリーマン→フリーよりフリー→サラリーマンの難易度は圧倒的にです。自分がサラリーマンを経由しなくても良い明確な理由がある場合を除き、とりあえず入っておいて、自分自身がサラリーマン向きか見てみる、というのはド安定の鉄板戦略なのです。

 

ビジネスがどういう風に回っているかを学べる

 会社というのは当然会社のビジネスを回しながら金を稼いで給料を支払っていますので、会社のビジネスがどういう風に始まり、人から人へ伝播し、サイクルしていくのか、その一部始終を見て学ぶことができます。

 例えばゲーム会社なら、ゲームがどうやって企画され、プロジェクトとなって、基礎を作って、人を集めて、アートを策定して、アイデアを練り、実装し、繰り返しテストプレイし、デバッグし、パッケージングし、宣伝し、人々の手元まで送り出されていくか。全部見ることができます。これは、どんなに頑張っても書籍やインターネットでは知ることができません。

 

 

サラリーマンをしても得られないこと

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睡眠時間

 睡眠時間……というか個人の時間はすっかりなくなります。あなたがアフター5や土日といった余暇をフルにつかっても、大学生の頃の自由に比べれば微々たるもの。資格やサイドビジネスの勉強をしたり、残業したりすればあっという間にこの時間も消えます。かといって睡眠時間を削れば精神的に脆くなりますし、30歳を越えると確実にガタが来ます。しかしそうなってやっと睡眠時間のありがたみを知るというのもさもありなんです。

 

対人ストレスからの解放

 「得られること」で色んな人間を見れる、と説明しましたが、三年も経過すれば彼らのうち何割か、或いは殆どがあなたにとって害になります。会社という組織において、あなたがあなたにとって害を及ぼさない人のみと仕事をできるようになるのは、少なく見積もっても10数年後です。

 あなたが優秀であればあるほど、無能な人間はチームの足を引っ張り、会議を混乱させ、給料体系に釈然としない何かを印象付けていきます。そのストレスは自覚し始めると際限なく大きくなるでしょう。

 

自分のビジネス

 全てのサラリーマンは、自分のビジネスを持てません。会社のビジネスにとって社員が個別にビジネスを持ってしまうことは害でしかないので、そういうことができないように組織が作られています。

 そして、この自分のビジネスというキーワードこそが、あなたがサラリーマンでいるべきか、そうでないべきかを分ける重要なモノなのです。

 

 

ビジネスとは。

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 ビジネスとは。端的に言えば、活動サイクルのことです。

 何か大きな目的を達成するために、活動し、対価を得て、また次の活動に繋げる、その一連の流れのことです。ただし、次の二つの条件を満たさなければなりません。

  • 誰か特定の他者に依存してはいけない。
  • サイクルでなければならない。

 例えば、サラリーマンの仕事はビジネスではありません。サラリーマンには必ず特定の雇い主がいて、雇い主が破産してしまえば明日からの仕事がなくなってしまうからです。また、自分のこなした業務が次の業務に繋がることはあっても、それは常に上から降ってきた仕事であり、自分の手元でサイクルしているものではありません。

 

 ビジネスという観点で言えば、サラリーマンの仕事というものは渋谷駅で女子高生が自分のパンツを1万円で買ってくれるおじさんと毎日会うのと一緒です。この女子高生はおじさんと会い続ける限り経費(パンツ代)を除いて1万円の日当を受け取ることができますが、このおじさんが居なくなってしまえば次の日から取引を行うことができなくなってしまうからです。

 また、街頭でのパンツ売買は待ち合わせのないあくまで偶然(という体)の商取引なので、この取引におじさんと女子高生を拘束する力はありません。よってサイクルもしないのです。

 

 このパンツ売りを「ビジネス化」するにはどうすれば良いでしょうか。簡単です。女子高生側は商品であるパンツを大量に確保するため女子高生ネットワークを構築し、おじさん側にも買い手が無限供給できるようポータルサイトを作るのです。

 こうすれば、特定のおじさんが居なくなってもパンツは売り続けられますし、ポータルサイトを介して拘束力のある取引が発生し、ビジネスのサイクルが回りはじめます。

 

 世の中にはビジネスチャンスが溢れています。ビジネスとは大げさなものではありません。お坊さんが民家を訪れてお祈りをする代わりに施しを受ける「托鉢」もビジネスですし、毎日路上で立って同情してもらいお金を受け取る「乞食」だって今やビジネスです。手作りのアクセサリーをネットショップで販売するのもビジネスですし、当たるも八卦当たらぬも八卦の怪しい占いだって立派なビジネスです。

 

 

 しかし……繰り返しますが、サラリーマンである限り、ビジネスは自分のものになりません。

 逆に言えば、あなたがサラリーマンを辞めるには、あるいは企業への就職をせずに生きていくには、このビジネスを手元で作り上げ、回し続けなければならないのです。

 

 時に、大学を中退し、会社を設立する人もいるでしょう。彼らにあるのは安定した資金や明確な人生プランなどではなく、手元で回り続けるビジネスです。既にビジネスを持っているから、サラリーマンになってビジネスの歯車になる必要がないのです。逆にあなたがたとえ何千万円か貯金していたとしても、このビジネスというものについて理解していなければあっという間に食いつぶしてしまうでしょう。

 

 そう、ぼくが自分でゲームを作る技術を持ちながら会社に就職したのは、このビジネスを明確に所持していなかったからで、今、会社をやめたのは、自分のビジネスについての目処がたったからなのです。

 

 

 

さあ、会社をやめよう!

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 ぼくは今や会社をやめた側の人間なので、やっぱり結び言葉はこうなります。

 自分自身のビジネスは、全ての責任が自分に来ます。安定や社会保障は露と消えるかもしれません。それでも、あなたには睡眠時間の自由があります。人間関係は……多少自由が効くようになります。そして何より、あなたの賃金は青天井になりますし、あなたはあなたの好きなことをして暮らしていくことができます。

 

 資本主義の経済では、大抵のことが、それが誰かに望まれているものならば、お金になります。ビジネスを作り、それがお金を生み出すようになれば、それより楽しいことはありません。一方で、お金を稼げる、本当に皆から望まれるビジネスを作り上げるのは難しいことです。

 時には失敗することもあるでしょう。ビジネスを失うことは、恥ではありません。サラリーマンに逆戻りしたっていいのです。しかし、ビジネスとは何なのかを一生知らないままサラリーマンをしているのは、とても惜しいことです。

 

 シンプルに生きましょう。動機は「お金を稼がなきゃ」でもよいのです。しかし、ビジネスと真っ直ぐに向き合ってください。そうすれば、きっとあなたは自分自身の誇らしい活動と共に、新しい世界を歩むことができるでしょう。

 

 

*1:会社の悪口なんてものは探せばいつまでも見つかるモンで、そういうのをつらつらと並べるのは今はやめておきましょう。

*2:第二の人生が無人島でサバイバル生活でもない限り……

*3:或いは、彼らにしかできない仕事と言ってもいいかもしれません

*4:ここではフリーランス、とは言いません。サラリーマンの対義語としては意味が狭くなってしまうからです。