アニメPがモバマスに二ヶ月で 25 万注ぎ込んだ話。(前編)

カランカラン…(バーのガラス扉を開けて男が入ってくる)


おや、見ない顔だな。あんたもアニメを見てアイドルをプロデュースすることなんかに興味が出たクチかい? それなら、俺のアドバイスはきっと役に立つだろう。俺も、そうだったからな。
そう、その目だ。その哀れんだような訝しげな目。君の言いたいことは分かる。こいつは、先駆者たちの制止もロクに聞かず愚かにもプロデュース活動に走り、何万、何十万という大金を失って、こんな辺鄙なバーで安酒を飲みながら後悔するしかなくなった、そう言いたいんだろう? 君がこの店に訪れたのも、そういう人間を見て「俺はこうなりたくない」と最後に踏みとどまるための楔を見つけにきたのだろう?


君の予想は半分合っているし、半分間違っている。


聡明なる先駆者たちの説得を無視してプロデュース活動に勤しんだのは事実だし、そこに家賃より、いや一月の給料より高い金が出て行ったのは事実だ。だが、俺の目を見ろ。腐っているか? 死んだように淀んでいるか?
違うだろう。何故なら、俺は「モバマス」という闇のゲームの中で一筋の光を見つけ、追い続けてきたからだ。
(ぐっとグラスの酒を飲み干す)


いいか、敵は強大だ。いかに先駆者が絶望し腐っていく様を目にした所で、もし君がアニメで「嫁」に出会ってしまったら、きっと引きずりこまれてしまうだろう。三ヶ月後には次のクールだ。新キャラが出る布石もある。ニコニコ動画千川ちひろに「この世全ての悪」なんてコメントを冗談で付けられるのもきっと今の内だ。
だから、俺が教えるのは、この闇の世界の中でどう歩んでいけばいいか。そう、モバマスとは何か、"Pay To Win"とは何か、そして、何故人はたかだか数KBのデジタルデータに何十、何百万という金を吸い取られていくか。その知識と経験と俺なりの答えを君に託したいと思う。

(この記事は、とある記事のオマージュです。)

モバマスを始めたわけ


ソーシャルゲームはここ数年で流星の如く現れ、一夜にして隆盛し、破壊と創造を繰り返しながら荒野に無数のコロニーを築いた。今や、ソーシャルゲーム業界の海は真っ赤に染まっている*1。その数多の星々の中で、何故モバマスを選んだのか。
実は、元々このゲームのことはずっと気になっていたんだ。きっと殆どの人間は忘れているだろうが、いわゆるオタクたちにとってソーシャルゲームという言葉は長い間後ろに「(笑)」が付いていた。2000年代終盤、探検ドリランドとか怪盗ロワイヤルとかその辺の時代だ。ところが、アイドルマスターソーシャルゲームに出る、この展開で我々の世界は大きな揺さぶりを掛けられる。
幾つかの記事には覚えがあるだろう。一晩で何十万溶かしただの、コンプガチャが禁止になっただの、そういったニュースがネット中を駆け巡った。そしてそういった話題が一段落した頃、いつの間にソーシャルゲームというものは一般的なオタク層にすっかり受け入れられていた。


つまり、モバマスは人々のソーシャルゲームに対する認識を大きく変えさせた最も原始的なゲームのうち一つであり、ピークこそ過ぎたといえ現存する中で最も盛り上がっている Pay To Win の権化なんだ。だからこそ、遊ぶ価値がある。プレイして、その仕組みを学ぶことは、大きな意味を持っている。
最近のソーシャルゲームのトレンドは「課金しても勝てない」、つまり結局費やした時間とプレイヤースキルを主軸に沿え、一部の重課金層と広く浅い軽課金層、そして広告収入をメインに運営するものに差し変わって行っていることからも、大勢の参加する Pay To Win のゲームを遊ぶという貴重な体験は、今ここでしか出来ないと、そう考えたんだ。


……とまあ御託を並べたところで、結局一番の原因は諸星きらりと出会ってしまったから、なんだがな。

突然荒野に投げ出されて


正直に言おう。俺はモバマスを始めて、一度は一日でやめた。あまりにもUIが酷すぎたからだ。
緑色の服を着た女性に連れられて強制的にシーケンスを一通り舐めさせられるチュートリアルは、一つ終えるごとに二つ前のものを忘れていった。全て終わったら突然荒野に放っぽりだされて、一体何をしたらいいか分からない。遠くの方では殴り合ってる声や現金の溶ける音、さっきの緑服の女性がドリンクを売っている特設店舗……一体何が起こっているのか、全く分からなかった。
さっき茶番で出会った渋谷凛ちゃんは俺のことをu12008305プロデューサー*2とか呼ぶし。誰だそいつは。


結局、俺はかねてよりこの戦地に赴いていた旧友*3に連絡を取りつつ、およそ三週間後(2015/2月上旬)に再開した。久々のこの地で、俺を導いてくれたのは双葉杏だった。彼女が携えていた「パネルミッション」はゲーム中で条件を満たすことでパネルが開放され、特典が入手でき、三枚のパネルを全て開けると晴れて SR(後述)双葉杏が貰えるというものだ。
このパネルミッションは素晴らしいものだった。「お仕事をしよう」「LIVEバトルを3回しよう」「プロダクションに入ろう」と、モバマスを遊ぶ上で必要となっていく要素一つ一つに紐付けられ、ユーザは自発的にその行動をし、学習しながら特典が貰えるのだ。次にどれをやるか、自分で選べるのもポイントだ。チュートリアルとは何だったのか。


モバマスのメイン画面


一通りパネルミッションを終えて、俺はこのモバマスというゲームが一体どういうものなのかを大体理解した。*4
まず、メインとなるのはお仕事だ。自分のアイドル達と各地を回り、雑務をこなしていく。お仕事にはスタミナが必要で、これは時間かアイテム(勿論、課金だ)で回復する。一つのエリアで一通りのお仕事を終えると、ボーナスを獲得し、ステータスに割り振って強化していくことができる。基本はこれだけを繰り返していけばいい。
もう一つのメインはLIVEバトルだ。手持ちのアイドル数人でパーティを組み、他のプレイヤーとバトルするという、良く分からないシステムだ。一体バトルとはなんだ? ラップ対決みたいに煽り合うのか? 分からん。LIVEバトルでは仕掛ける側が攻コスト、仕掛けられる側が守コストを消費し、この二つのステータスもお仕事ボーナスで強化することができる。また、プロデューサのランクを表す「ファン数」もこのLIVEバトルで増やすことができる。*5
手持ちのアイドルを鍛えたい?なら、レッスンをすると良いだろう。各々のアイドルにはレベルがあり、不要なアイドルをパートナーとしてレッスンすることで、レベルが上昇しステータスが上がる。尚、レッスンに使用したパートナーは消滅する。

どうやら、俺たちはこの不可思議なシステムに疑問を持ってはいけないようだ。
きっと、モバマス以前にあった黎明期のソーシャルゲームを丸パク……参考にしているのだろう。

以上が基本構造だが、お仕事は無尽蔵ではなく、LIVEバトルは現状戦うメリットがほぼ無いので、ユーザは一瞬でコンテンツを消費しつくしてしまう。そこで、登場するのがイベントだ。諸悪の根源である。イベントでは、基本的に他の全てのユーザが敵だ。不毛な争いを乗り越え、運営の販売する専用ドリンクを大量に買い込み、それを逃せば二度と手に入らないレアカード(上位報酬)を勝ち取る。そんな、修羅たちの戦いがイベントだ。
モバマスの歩みは、イベントと共にある。当然、俺もそこに身を投じていくわけだが……何、そう焦るな。順を追って説明するさ。

現金、その価値


さて、導入はここまでだ。ちゃんと付いてきているか?
俺はこのモバマスをプレイするにあたり、実弾を使うことにした。何のことかって? 決まっているだろう。現金だよ。タイトルにあるとおり、25万円という額だ。実は、この額は、「衝動的な」ものでもなければ、「ズルズルと」使い込んでしまったものでもない。俺は最初から、この額を使おうと決めていた。

以前の記事でも書いた通り、ソーシャルゲームというものは課金無しで100%楽しむことができるものではない。"これ"は所謂アーケードだのコンシューマだのの「延長戦上」にあるものではないのだ。どちらかというとパチンコや競馬、メダルゲームに類する、娯楽という大きな枠組みの中の一ジャンルでしかない。だから、俺は課金要素があるゲームを課金する時は、適切な額を課金して一気に走りぬけるようにしている。それが、ソーシャルゲームの最も有効な楽しみ方だと信じているからだ。


俺がモバマスをやる上で掲げた目標は二つ、「イベントで上位を取ること」と「諸星きらりのカードをコンプすること」だ。それを成し遂げるために必要な額、それが25万円という金だ*6。大金? いいや、違うね。モバマス重課金兵たちにとっちゃ、無課金を脱出し、微課金兵に昇格できる、その程度の額だ。*7

いいか、最初に教えておく。このゲームにおいて、アイドルの価値はスタミナドリンクという一個100円の代替通貨アイテムによって表される*8。最上位のアイドルは1枚2200スタドリ以上、つまり現金にして22万円だ。当然そんな高価なアイドルは入手出来ないから、100〜300スタドリ程度の比較的安価でかつ戦力になるアイドルを揃える。プレイヤーはパーティメンバーを5人、イベントなら10人まで揃える必要があるから、それだけで1000〜3000スタドリ、現金換算で10万〜30万円が必要だ。どうだ、途端に25万円という金が紙切れのように思えて来ただろう?


ともかく、だ。俺は実弾を惜しまないことにした。じゃあ、何にそれを使うか。そう、ガチャだ。

地獄への登竜門


アニメ放送記念5STEPガチャ。俺達のような哀れなアニメPを迎える、最初のガチャだ。ガチャ*9というのは未だ多くのネット/ソーシャルゲームで親しまれている最も直接的な課金システムで、300円くらいを払うとレアなアイテムが一枚だけ出てくる、たまーにもっとレアな「S(スーパー)R(レア)アイテム」が出てくる、そんなゲーム内要素である。モバマスにおいて、出てくるのは「アイドル」だ。強いアイドルをガチャで引き、パーティを強化し、他の無課金プレイヤーを蹂躙する。これがモバマスにおける基本構造である。

さて、この記念 5STEP ガチャは、引いていくごとに額が上がるガチャだが、5回引いても1000円未満、しかも確実に SR 一枚と色々な課金アイテムが貰えるという、非常にお得なガチャだ。当然、一気に引ききるのが男(?)ってもんだ。
結果、俺はなんと SR を三枚(うち一枚は確実に貰える)引いてしまった*10。当時はアニメ放映キャンペーンをやっていたので、コラボカードでラブライカの二人が SR として加入。なんと、始めて数日目にして早くもフロントメンバー*11が SR で埋まってしまった。

ラッキーだと思うか? 甘いな。これはあの緑色の事務員の罠だ。

黒のモバマス

恐らく、運営が意図した最初期のモバマスはこうだ。お仕事や、毎日引ける無料ガチャでアイドルを集め、パーティを結成する。お仕事でエリアクリアをしたり、LIVEバトルでコンプリートアイテムである「衣装」を集めると、より強いレアカードが集まり、パーティが強化されていく。強化されたパーティでイベント(後述)をこなし、上位に入賞すれば更に強いアイドルが手に入る。実に健全なシミュレーションゲームだろう?
残念ながら、現実のモバマスはそうではない。SR はキャンペーンやお得なガチャで容易に手に入り、運命的な出会いを果たした初期ノーマルアイドルは二秒でお払い箱になる。お仕事中に出会うノーマルアイドルが戦力として役に立たないのは言わずもがな、レアもフリートレードという市場のような所で投売りされている。そもそも、SR でさえスタドリを一つか二つ出せば、最前線級以外の大抵のものを入手することができる。


君にも、大体分かってきただろう。モバマスという世界は課金戦士に最適化されている。「課金するかどうか」じゃない、 「いくら課金するか」なんだ。スタートアップキャンペーンは、呼び水、つまり「お前はこの先戦う覚悟があるか?」と我々に問う最初の試練だ。

人は「世界観」にお金を払う。


金がかかることは分かった。じゃあ、何故人は金を払う?
1万円というのは大金だ。モバマスのユーザは皆大富豪なのか? 違う。俺の25万円も、ぽんと出た金ではなく、原資は汗水垂らして働いたボーナスだ。一月の手取りは優に超えている。1万円あれば上手い酒が二回は飲める。新しいゲームが二本買える。ちょっと贅沢な家財道具や、クッションや、分厚い技術書が幾つか買える。
その1万円がモバマスの中ではどのくらいの価値を持つのか? 答えは、10連ガチャ(3000円)×3回+1/3回分だ。時間にしておよそ二分……そう、たった"二分"だ。しかも、この額で目当てのアイドルを入手できるかというと、全くそうではない。*12
なのに、何故人はモバマスに大金を注ぎ込むのか? たかが、画像一枚にテキストが付属しただけのデジタルデータに。

違う。君が入手するのは、デジタルデータではない。アイドルとの思い出なのだ。
カード一枚に含まれているのは特定のシチュエーション下にあるそのアイドルのイラスト一枚と、それに沿った彼女の台詞だけだ。しかし、その裏には、確かなドラマが存在する。プロデューサーである君と、彼女とのかけがえのないワンシーンの断片が、カードという形になってにじみ出ているだけなのだ。アイドルによっては、専用の思い出エピソードが付属している。ボイスが付いているアイドルは、君だけに語りかけてくる。


さっき、ノーマルアイドルはお払い箱になると言ったが、あれは間違いだ。ノーマルの彼女も、レアの彼女も、Sレアの彼女も、皆全て同一のアイドルなのだ。新しいカードを入手することは、彼女の世界をまた一つ、垣間見るということなのだ。
逆に問おう。どこに、お金を払わない理由がある?
この構造は、現実のアイドルや、或いは古くからある花街・キャバクラ・ホストクラブなどと何ら変わりはない。相手のことを支えたい、相手のことを知りたい。そのためなら、幾ら払っても構わない。それは、恋愛とは違う感情だ。


人は「世界観」にお金を払う。覚えておいてほしい。

そして、戦場へ


パーティは揃った。仕事にも慣れた。
では、次は何をすればいい?
そう……イベントだ。


プロダクションマッチフェスティバルモバマスの最も原始的で最も盛り上がる最も巨大な戦争。
それが、俺の初めてのイベントとなった──。


中編に続く

*1:レッドオーシャン

*2:モバゲーをやったことがなく、かんたん会員という形態で登録するとこうなる。これに萎えて辞めた人も多いのではないだろうか

*3:春日野氏

*4:ちなみに、何故チュートリアルがあそこまで役に立たなかったのかを推察すると、現状の「モバマス」というゲームが、恐らく運営の意図したものと大分異なった姿になったからだ

*5:ちなみにこのLIVEバトル、現状行う意味はほぼ無い(除道場)

*6:何故25万円かというと、

*7:勿論、二ヶ月で使うとなればそれなりの課金ペースではあるが。

*8:メインの通貨となるマニーが大量に手に入るので機能していないからだ。ネトゲではよくある現象である。

*9:言わずもがな、語源はガチャポンだ。……今時の若い子に通じるのだろうか?

*10:新春だりーな / 水着未央

*11:パーティのことだ

*12:仮に一万で引いたら、あんたん=安く引いたと言われ、嫉妬の眼差しで見られることになる