ユーザの意見を聞いてはいけないワケ

「アイデアとは複数の問題を一気に解決するものである」というのは宮本茂氏の言葉である。
ユーザの意見に右往左往させられて、結局ゲームバランスを失って瓦解したゲームは数知れず。ゲームデザインはとても難しい。ゲームをデザインするからには一人でも多くのユーザが楽しめるようなゲームを作るというのは一つの基本的な戦略だが(勿論、ニッチな層だけを楽しませるために作られたゲームもある)、ユーザというものは実に不可解なほど協調性を見せず、あちらを立てればこちらが立たずの堂々巡りである。
全てのユーザの要望を盛り込んだゲームは存在し得ないので、ユーザの意見は基本的に聞いてはいけない。かといって、ユーザに耳を傾けず我が道を突き進んでも勿論上手くいかない。
では、どうするか。イデアの出番である。

相反する二つの意見

Incubatorを例に取ろう。試作段階のこのゲームについて、「テンポが遅すぎる」という意見と「テンポが速すぎる」という相反する意見があったとする。前者は、「個々のパラメータが重要な意味を持つため、テンポがそがれてしまう。もっと感覚的にプレイできるようにしてほしい」と言う。後者は「パラメータを確認している間にゲームがどんどん進行してしまう。もっとゲームスピードを遅くしてほしい」と言う。
これらの意見をテンポという同一の軸にまとめると「遅すぎる」「速すぎる」という矛盾を生み出してしまう。が、彼らが本当に求めるモノは、別に正反対のベクトルを向いているわけではない。
この問題に対する答え=アイデアは、「パラメータのうち重要なものをフィールドにも表示する」だ。Incubatorの場合HP、レベル、少女の色、スキルの有無など。これにより前者はフィールドだけを見つめてプレイできるのでテンポを削がれることはなくなったし、後者はパラメータ確認に時間を取られなくなり、ゲームに置いていかれなくなった。

解決方法は単一ではない

公開当初はIncubatorは緑ゲーと言われていたりした。緑色の魔法少女はスキルLV1で勧誘スピードを上昇、LV2で経験値上昇とかなり強いスキルを持っており、序盤から必須とまで言われていた。
とことんモード実装時、ぼくは一旦全ての魔法少女のスキルを見直したのだが、その時彼女のスキルを分離し、暫定的に経験値UPは水色の魔法少女のスキルとなっていた。
しかし、それは良い解決方法ではない。強さを分散しても次の強キャラが出てくるだけだし、キャラクターの個性を没入させていけばゲーム性は狭まりクソゲー化していく。
そこで一度色毎の特性をもう一度検討し、目的に合ったスキルを一つずつ付加していった。あまり日の目があたらなかった水色にはLV1から仲間を増やせる特性を付け、赤やオレンジには評価されていた攻撃力の高さを補助するスキルを付けた。大器晩成型の紫には自身ではなく生まれる魔女を強化するというトリッキーなスキルを付加した。
その結果、各キャラクターがかなり魅力的なものとなり、最初のランダムでどれが来ても十分戦える性能になった。緑のスキルを元に戻したが、特に問題は無さそうだった。
強すぎるキャラクターを何とかするため他のキャラクター全てを見直すという手法はとても遠回りに感じるかもしれないが、短絡的な解決を試みてゲーム全体が矮小化していくリスクを考えると、有効な解の一つといえるだろう。

イデアとは

埋もれた財宝である。
つまり、ユーザの意見を聞くなというのは耳を塞げという意味ではない。彼らの意見は「不満を示すもの」としてはとても有益だが、「解決策を示すもの」としては全く価値を持たない。そのことを理解しておくべきなのである。
では、示された不満を解決するための策はどこにあるのか。それは常に地中深くに埋もれている。天才的なひらめきで見つかることもあるし、多面的な視点(上の例にある遠回りな解決)で掘り出すこともある。上手くやれば、きっといがみ合っていたユーザたちは、あなたの渾身のアイデアを評価してくれるだろう。