「トゲゾーこうら」がダメな理由

マリオカートという有名なレースゲームに「トゲゾーこうら」というアイテムがある。発射すると一位のプレイヤーめがけて超高速でコースを疾走し、問答無用で標的を粉砕する攻撃アイテムである。
64マリオカートから何故か皆勤賞のこのアイテムをぼくはつくづくクソだと思うのでそれを反面教師とすべく何故このアイテムが「クソ」なのかを説明する。
※この記事が書かれたのはマリオカート7時点です。

前提知識

  • 当たると大クラッシュする攻撃アイテム。
  • 一位のプレイヤーを目指して飛んでいく。他のプレイヤーを追尾はしないが、ぶつかるとついでに吹っ飛ばす。
  • 基本的に不可避。他のアイテムのように甲羅やバナナで防ぐことも、コースを使って防ぐことも無理。
  • 順位が下であれば下であるほどアイテムボックスから出る確率が上がる。

逆転要素であるアイテム

 マリオカートはレースゲームの腕よりもアイテムでの攻防が重要となるパーティーゲームである。なので基本的にスタート直後の順位はゴール時の順位にほとんど反映されないし、ラスト1ラップでも最下位からトップを狙える仕様になっている。アイテムはコース上のアイテムボックスからランダムで出てくるのだが、順位が上なら弱いアイテム、下なら強いアイテムが出やすくなっている。特に逆転を狙えるような強いアイテムは以下の通りだ。

  • パワフルダッシュキノコ(無限に使えるダッシュアイテム)
  • スター(一定時間無敵+吹っ飛ばし+スピードアップ)
  • キラー(一定時間自動操作+高速化+吹っ飛ばし)
  • サンダー(一定時間自分以外のキャラ低速化+踏める)
  • トゲゾーこうら

 ぼくはこの逆転要素というのは良いと思っている。というか一片の文句すらない。マリオカートのバランスは相当神がかっていて、上手い人はきちんとプレイに納得できるし、下手な人の救済も十二分にされている。ただしトゲゾーこうら、テメーはダメだ。

喪失のみを与えている

 ゲームにおいてプレイヤー間の差を縮めるには二通りの方法がある。「上のプレイヤーを下げる(喪失)」か「下のプレイヤーを上げる(褒賞)」かだ。多くの場合、ストレスフルでないのは褒賞の方で、下の方に居るプレイヤーをどんどん引き上げてあげると彼らのモチベーションは上がるし、上位プレイヤーは自分のプレイに満足したままでいられる。マリオカートでの強いアイテムは、そのほとんどが褒賞タイプのアイテムである。パワフルキノコは言わずもがなだし、スターやキラーは接触した相手を吹っ飛ばすという能力を持つものの基本的に自己の強化である。サンダーは攻撃アイテムだが、自分以外の全てのプレイヤーを減速させるため、実質自己強化のアイテムである。
 が、トゲゾーこうらだけはそうではない。
 トゲゾーこうらだけが使用者に一切の(僅かにはあるが)メリットを与えず、他のプレイヤーにデメリットを与えるという喪失のみの「強いアイテム」なのである。何故他のアイテムは徹底されているのに、トゲ甲羅だけがこんな理不尽なアイテムなのだろうか。何を考えてこんな仕様にしたのだろうか。

不可避であるということ

 加えて、トゲゾーこうらは限定的な手段でしか回避することが出来ない。他の攻撃アイテムはバナナや甲羅を出しっぱなしにすることで相殺し防ぐことが出来るが、トゲゾーこうらは無理である。コースを使っても障害物を使っても無理で、空も飛んでくるので空中で炸裂することも珍しくない。唯一、キノコを決められたタイミングで使えば回避できるのだが、難易度が高く、練習手段に乏しい上、一位でキノコを持つような状況は極めて稀である。
 他の「強いアイテム」、スター・サンダー・キラーと比較してもそれらは後ろから迫る敵を避ければ自分への被害は無い。何故かトゲゾーこうらだけが実質不可避である。

一位のプレイヤーが狙われる価値とは?

 とはいえ、前にあげた二つの項目は必ずしも悪とはいえない。ゲッソーというアイテムは相手の視界を妨害するアイテムで、二つの条件を満たしているが、別にクソなアイテムではない。トゲゾーこうらがそのクソさを露にしている最も大きな理由は、トゲゾーこうらが一位のプレイヤーだけを狙うというその陰湿な性質に因る。
 トゲゾーこうらは一位のプレイヤーを狙う。捕捉した瞬間に一位なら、その後二位に転落しようが最下位になろうが命中する。標的のすり替えだとかなすりつけなどといった気の効いた要素は無いらしい。

 マリオカートにおける一位の価値とはなんだろうか。一位とは二位よりも自機が前に居る状態である。車体一つ分でもいい。距離が近ければ、緑甲羅一つでひっくり返る程度のモノだ。
 なのに、そこには大きな差がある。トゲゾーこうらのせいで。というか、二位の方が有利だ。だったらずっと二位で張り付けばいいと思うかもしれないが、全員がその戦略を取ったらダチョウ倶楽部宜しく仲良し鈍行レースである。面白くもなんともない。トゲゾーこうらが一位だけを狙う意味は、極めて不可思議である。

誰も得しないアイテム

 そもそも、このトゲゾーこうらとはなんなんだろう。
 他のアイテムはプレイヤー全員より自分が有利になるため、順位をグッと上げることが出来る。特にスターやパワフルキノコはコース上に散りばめられたショートカットを最大限に利用することが出来るだろう。でも、トゲゾーこうらは使った所で自分が加速するわけでもないし、一位プレイヤー以外は基本的に被害を受けない。順位が上がらないのだ。しかし一位のプレイヤーは散々な目に遭う。あなたはそれを想像してニヤニヤできるかもしれないが、実際にその現場を見ることは無い。このアイテムで最も得しそうなプレイヤーは僅差で争っていた二位や三位のプレイヤーだ。が、彼らは果たして嬉しいのだろうか。パーティゲーとはいえ、真剣勝負である。棚ぼたの勝利を素直に喜ぶだろうか。
 ゲームでは「行動」と「結果」が一セットであり、その結びつきにより強い感動や喜びを得る。トゲゾーこうらは行動せずに結果を齎し、行動したのに結果を齎さないというゲームとして一番やってはいけないことをやってしまっている。

どうすればよかったのか

 手段は幾つかある。トゲゾーこうらは上に挙げた複数の性質を全て持ち合わせているからクソなのであって、どれかをちょっと弄るだけで大分公平なアイテムになりえる。
 例えば、全員を狙う。例えば、下位ではなく、中位のアイテムにする。或いは、もう少し確率を下げる。……確か64時代は一試合一つ出るか出ないかだった気がするが、7は一周に一回出る。明らかにやりすぎだ。
 何故、もっとも良くない状態のまま今まで野放しにされていたのか、甚だ疑問である。

(追記)8以降では

 トゲゾー甲羅の確率は若干下げられ、また比較的中位に出るアイテムとなったため、幾分かクソさが緩和された(まあ、キノコ一つ出たほうがよっぽど有用なのだが……)。また、一位でも出現し、トゲゾー甲羅ごと壊せる「クラクション」が実装され、脅威度は落ちた。この辺が落としどころだろう。意地でも続投するのは、やはりシンボルとして大事にしたいということだろうか。