情報開示とコンテンツ更新

https://www.youtube.com/watch?v=-ZE9YTsbaBA
ハースストーンのゲームデザイナーがこんな動画を上げていたのを見て、最近思う所も色々あったので今日はこんな話題。大体言いたいことは言われていたりするんだけども。

まず大前提

全ての情報は、適切なタイミングで明かされる必要がある。
我々が作っているのは娯楽で、娯楽の価値はいかに人を楽しませたかで決まる。初めてそれに触れた人をどれだけ「良い意味で驚かせられるか」は、極めて重要な要素だ。


もし、ゲームの全ての情報、あらすじやラスボス、最強の必殺技までを発売前に開示してしまえば、例えそのゲームが体験に重きを置くアクションゲームだったとしても、プレイヤーが感じるカタルシスはほぼ皆無になるだろう。
だから、本当は何もかも隠しておきたいのだが、そうも行かない。存在しない情報に興味を惹かれる人はいないからだ。このゲームが面白そうだ、これをプレイしたい、グラフィックが綺麗、そういう話題を引き出して、盛り上げなければ、数多のゲーム・プールの中で自分のゲームをわざわざ選んでくれる人は皆無だろう*1


情報を出して広告するという行為は、ゲームそのものの面白さを少しだけ削り、それを大衆の興味に変換する、捨て身の作戦である。だから、それはもっとも効果的な方法とタイミングで行われるべきであり、ゲームデザイナーは(個人開発なら特に)常にそれに気を配らなければならないのである。

熱気コントロール

情報公開から連なるプロダクトリリースの最良のタイミングを定義しよう。
これも単純だ。プロダクトは、ユーザの熱気が最も高まっている時にリリースすると良い。


つまり、情報を公開し、熱気を高め、その熱気を最大の状態に維持したままプロダクトがリリースできれば一番良いのだ。ゲームの場合は、大体一か月から長くても半年程度と言われている。それ以上経つと、一旦話題にはなるが少し沈静化してしまい、かつて熱狂した少なくない割合の人々が「あれ、いつの間に発売してたの」なんて状態を生み出してしまう。*2


Apple のように「プレゼンやるよ」と言っただけで極端に熱気が高まるケースでは、それこそ「発表と同時にリリース」という戦略が最強になる。こちらは逆に、一日でも遅れればそのプロダクトは多くの人に忘れられてしまうだろう。
反面、コミックマーケットで売るような同人ゲームの場合、当日発表当日頒布ではほぼ人が来ないと思った方がいい。当日の朝はみんな寝てるか死んだ魚の目で始発に揺られているからだ。幸い同人は一か月前くらいからみんな一斉に情報を出したりして全体の熱気が高まっていくので、その時流に乗り遅れなければOKである。なに、間に合わない? 頑張れ!


逆に、熱気さえコントロールできていれば、これ以外の戦略を取ることも自由だ。半年前から定期的に情報公開を含めた動画をアップしたり(ニンテンドーダイレクトはまさにこれ)、最近流行の Twitter などに毎日進捗を上げるようなものもファンをしっかり掴む用途ではとても良い。
その一方で去年のE3におけるソニーのカンファレンスのように、「凄いタイトル目白押し! まあ、リリースは来年か再来年以降だけどね」というのはその場の熱気こそ高まるが、タイトルが認知される以外の効果は実はあんまり無い。認知に関してもソニー任天堂に目を掛けられるようなAAA・大作なら好きなだけプレスも打てるし、最近はデジタルイベントを動画配信で適当な時期にやったりしているので、商業的な宣伝よりもお祭り感やプレイアブルでのデータ収集の方に重きを置いた方が得られるものは大きいと思われる。*3

だんまり期間

まあ、理屈は分かるのだが、実践すると色々問題が起きたりもする。商業プロダクトならリークは最も大きな敵だ。大体意識の低い海外の営業や中国の工場やヨーロッパのサードパーティとか*4から漏れ出すそれは、ユーザが初見で覚えるだろう大きな感動をごっそり削いでいくことになる*5。発表とリリースの間隔が長ければリスクは増大するし、短くなれば今度は展示関係者や流通関係者から漏れたりする。どっちにしてもリークに対しては細心の注意を払わなければならない。


そして、全てのケースに言えるのが、だんまり期間である。情報はゲームの面白さを削る、情報は熱気を高めるために出す、という前提がある以上、熱気が高まらないようなタイミングで情報を出してはならないのである。じゃあ、何をするかというと、開発者たちはまるで朝起きてベランダの植物に水をやり公園を散歩しながらハトに餌を与える、定年退職後の無趣味な老人が如く素知らぬ顔でだんまりを決めるしかないのである。

これが結構耐え難い。特に、自分がユーザと近い個人開発者で、自分のプロダクトを楽しみにしてくれている人がいれば尚更だ。ユーザには自分がせっせと作業しているのか、或いは仙人のように日々を過ごしているのか伝わりようがないし、プロダクトの内容には触れられないので、ブログや Twitter の内容は食べ物か他のゲームの話題ばかりになる。時にはこれが益々待ってくれている人たちの神経を逆なでする。*6
それを気にするなら多少不適切なタイミングだとわかっていながらも情報を小出しにしていくしかないが、これが少なくない割合で自分の首を絞める。ゲーム開発なんて往々にして上手くいかないわけで、延期したり、発表した内容が変わったり、仕様が丸ごと削られたり、そんなことは日常茶飯事だ。一切黙っていればこういう余計な不満をユーザに抱かせることはないのだけども、大体ぼくらは最悪のタイミングで最悪の情報を提供してしまう。この加減が本当に難しいのだ。


心配しないでほしい。みんなが大好きなそのゲームを開発者はいつも気に掛けている。飯を食っている時も、風呂に入っている時も、ベッドの中でも、息抜きに他のゲームをしているその時でもだ。

コンテンツ更新

コンテンツ更新、とりわけ修正パッチの内容はまた違うベクトルで気を配らなければならない。ゲームの新情報は大体好意的に捉えられることが多いが、コンテンツ更新においてはユーザは既にそのゲームで酸いも甘いも経験しているので、文字が羅列されただけの更新内容だけでもそれが一体ゲームにどんな影響を齎すか容易に想像できてしまう。そして問題となるのは、その想像が多くの場合間違っていることだ。


例えば、更新する内容をビフォーアフターで動画説明する方式がある。これは一番望ましいケースだ。ゲーム体験と最も近い所でユーザに理解を促せるし、それが多くのユーザの不満を解消するものであれば好評されるだろう。ただ、すごく手間はかかるし、そんなことをしている間に調整した方がいいし、どうせ数日後には公開するのだから……という気持ちが常に付きまとう。
一方で、下方修正を文字だけで説明するのは最悪のパターンだ。攻撃を2F早く、判定を20%大きく、効果発動を0.7秒早く……その調整がいかに微細で適切な修正であっても、ユーザに伝わるのは「下方修正があった」というネガティブな印象のみ。パッチがリリースされるまでの数日の間、幾多の不要な心配と不安を生むことだろう。


なので基本的に前者以外はパッチリリースと同時に公開するのが望ましい*7。その際も、更新内容としてどのくらい細かく書くかは難題である。自分のキャラを弱体化したと書かれると、ユーザの体感的には実際の三倍くらい弱体化されたように感じるものだ。その誤解は一週間もすれば解けていくのだが、ゲームに対して感じたマイナスの感情は消化されることなく、蓄積されていく。*8

まとめ

情報公開、とりわけマーケティングに関わる話題は今でも尚あらゆる開発者やメーカーが試行錯誤している部分であり、今回紹介したのもまだまだ局所最適な答えかもしれない。ただ、分かって欲しいのはそれらに関してぼくらはいつでも頭を悩ませているし、情報が出てこない時はいつだって必死だということだ。*9


なに、最近うちもだんまりじゃないかって? フフ、それはね……

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*1:そう、偶然話題になった「良い物」より、話題にもならず消えて行った「良い物」のほうがずっと多いのだ。

*2:話をしよう。あれは今から……

*3:インディーズのような、宣伝力が低くて注目されることに価値があり、かつリリースも早いプロダクトの方が実は上手く活用できてたりして。追い風かもしれない。

*4:U○Iとか○BIとか

*5:ちなみに、下世話なゲーム系ニュースサイトの「業界関係者」系のリークは殆どガセだよね。

*6:良くわかる。東方緋想天のときはぼくだってそのユーザの立場だったのだ。

*7:スプラトゥーンは先攻して事細かに書いてあるが、あれはかなりの下策である。慣れてないので仕方ないか。

*8:ちなみに、アップデートパッチが当たるとたまに「更新点に無いけど挙動が変わった」と言う人がいるが、九割方気のせいである。

*9:なんかこういうのをわざわざ説明するのって、すごく欧米っぽいよね。