役割論理

役割論理とは、ゲーム「ポケットモンスター」における戦術理論の一つである。

ある一定の枠組みの中で、プレイヤーが自由に戦術を編み出し、試行し、対戦を重ねていくと、時にゲームシステムそのものを裏手にとった極端な戦術が生まれることがある。こういった戦術はそのゲームにおける対戦をより奥深いものにするし、そもそもそういった戦術が生まれる器を持ったゲームというのは、即ち対戦ツールとして非常に優れている証である。

よって本記事では「ポケットモンスター」におけるルールと戦術を大雑把に説明しながら役割論理について触れ、どういう経緯でこの極端な戦術が生まれたのか、解説しようと思う。

基礎知識

ポケットモンスターとは、「ポケモン」と呼ばれるしもべを捕まえたり繁殖させたり交換したりといった手段で入手し、育成して技を覚えさせ、他のプレイヤー(トレーナーと呼ぶ)と対戦(バトル)を繰り返すロールプレイングゲームである。
バトルは二人のトレーナーが順番に手持ちのポケモンを繰り出し、技を出して相手の手持ちポケモン全ての HP を 0 にした方が勝利という単純なルールで成り立っている。小学生でも覚えられる手軽さながら大人でも楽しめる奥深さを秘めており、老若男女に愛され、遊ばれている。

ステータスと属性

全てのポケモンは、対戦に影響する次の六つのステータスから成り立っている。

  • HP
  • こうげき
  • ぼうぎょ
  • とくこう
  • とくぼう
  • すばやさ

HP は言わずもがなの残り体力で、 0 になると「ひんし」となって戦闘不能になってしまう。「こうげき」「ぼうぎょ」と「とくこう」「とくぼう」はそれぞれセットで、物理攻撃と特殊攻撃(火炎やビームなど)の威力と耐性を示している。「すばやさ」は文字通りポケモンの持つ速さで、一ターンのうちこの値が 1 でも大きいポケモンが先に行動できる。

ポケモンには 700 匹以上の種類が存在するが、それぞれ固有のステータスを持つ。また、それに上乗せする形でステータスを「育成」することができ、育て方によってプレイヤーがその按配を調整することができる。これは、対戦において大きな意味を持つ。

また、全てのポケモンポケモンの持つ全ての技には属性という概念が存在する。属性には相性があり、例えば炎タイプのポケモンに水タイプの技で攻撃すると、「こうかがばつぐん」と判定され、ダメージが二倍になる。逆に相性の悪い技で攻撃すればダメージは半減し、一部の非常に相性が悪いタイプでは、そもそもダメージが通らないこともある。

バトルにおける「交換」

以上のステータスをもって技を繰り出し相手の HP を 0 にするのがポケモンバトルだが、想像できるように「相性差」というものが存在する。炎タイプのポケモンは水タイプのポケモンに概ね弱いし、「とくこう」が高いポケモンは「とくぼう」が高いポケモンに受けきられてしまう。

そこで出てくるのが、交換というシステムである。バトル中に控えのポケモンと手持ちのポケモンを交換し、有利な体面を作り出すのだ。勿論相応のリスクがあり、交換という行為自体が一ターン消費するので、相手が技を繰り出していた場合、交換したばかりのポケモン無防備で相手の技を受けてしまう。

この無防備状態を嫌うため初心者はなかなか交換しないのだが、実際は交換した方がお得なケースは多い。たとえ無防備で一撃喰らっても、有利対面ならダメージは微々たるもの、それよりも有利な状況を作り不利な状況から逃げる方を優先すべき、というのがポケモンバトルにおける基本的な(勿論例外はあるがごく基本的な)考え方である。

役割理論

そうして誕生したのが役割理論である(タイトルにある役割「論理」ではない。紛らわしいが)。相手の特定のポケモンに対してこちらの特定のポケモンが確実に有利であるという状況を「役割を持つ」と定義し、常に相手に対して有利に立ち回れるよう交換を繰り返す=サイクル戦が基本となる戦術だ。(受け、潰し、流しといった概念は割愛する)

WiFi によるポケモンネットバトルでは事前に手持ちの六体を見せ合い、そのうち三体を選出してバトルを行うといった方式を取る。この時選ぶ三体を、役割理論では敵のどの六体が来ても対応できるようにしておく。例えば相手のポケモンA,Bがきたら手持ちのポケモンα、相手のポケモンC,D,Eがきたら手持ちのポケモンβといった具合だ。

バトルでは、常に有利対面を作り出すことを心がける。相手のポケモンに対して自分が有利なら攻撃し、不利なら有利なポケモンに交換する。次のターン、きっと相手もこちらに有利なポケモンに交換するだろう。ジャンケンのようにぐるぐるとポケモンが回っていくので、前述したようにサイクルと呼ばれる。

2 サイクル目からは相手の出すであろうポケモン読めるので、そのポケモンに対して有利な技(普段は使わないちょっとマイナーな技)を使ったりする。役割破壊と呼ばれる行為だ。こうして読み合いを繰り返し、少しでもリードを取ったプレイヤーが勝利する。これがサイクル戦におけるポケモンバトルである。

役割論理

そこで、ある閃きが生まれる。ポケモンにおける「交換」とは無防備な相手に攻撃できるチャンスであり、そこにポケモンのステータスの一つである「すばやさ」は関係ない。ならば、最重要とされている(先制攻撃はかなりのアドバンテージとなる)すばやさを捨て、耐久力にステータスを回したほうが、サイクル戦では有利になるのではないだろうか。このアイデアが、役割論理である。

役割論理の遂行に適したポケモンはヤケモンと呼ばれ、以下の特徴を持つ。

  • 素早さを犠牲に、高い耐久を持ち、高い攻撃力を持つ。
  • 複数の属性を持ち、弱点が少なく、耐性(有利な属性)が多い

特に「はがね」タイプ、「ドラゴン」タイプは多くのメジャーな技タイプに耐性を持つため、ヤケモンとして採用されることが多い。

この戦術の革新的な点は、ポケモンの様々な技や状態異常は、ポケモンにおける「すばやさ」が重要な位置を占める前提で組まれているので、それらを無効化することができる。

  • 素早さを上げる技、下げる技は殆ど戦局に影響を及ぼすことがなく、むしろ1ターン分のアドバンテージを得ることができる
  • 先制技はダメージの取り合いにおいて役に立たなくなる
  • 状態異常「まひ」の素早さダウンはもはやデメリットではなく、相手を麻痺にする技「でんじは」はこちらが 1 ターンのアドバンテージを得ることができる

また、補助技と呼ばれる、相手にダメージは与えないがバトルを有利に進める技を役割論理では採用しない。技は四枠しかないので、その分を使って攻撃範囲を広げた方が得だからだ。

  • ナットレイなど、補助技がメジャーなポケモンに、相手が「ちょうはつ」(相手が補助技を打てなくなる妨害技)を打ち、こちらがターンアドバンテージを得ることができる
  • 積み技と呼ばれる、ステータスを上げる系の補助技を、こちらの作り出す有利対面が上回れば、そのままこちらのアドバンテージとなる

これらのアドバンテージはいわばゲームの「穴」のようなもので、役割論理はこれらゲームシステムの根幹に関わる部分を意図的に無視することで、大きなアドバンテージを奇襲的に得ることができる。同時に基本的な戦術も「高火力・高耐久でダメージレースにおける有利を獲得する」というシンプルなものなので、そのままパワーで押し切ることができるのだ。

ポケモンXYにおける役割論理

ただし、戦術というものは「環境」に大きく左右される。周りの人が使うポケモンの傾向が変われば、同じポケモンでも強くなったり、弱くなったりするのだ。最強と呼ばれる戦術が、徹底的に対策されることで、大会などではむしろ優勝できないということはカードゲームの世界などでも良く起きる。

最新作であるポケモンXYにおける役割論理はどうかというと、正直あまり芳しくない。役割論理の長所、短所をあげて、環境がどのようにそれに影響したかを述べてみる。

  • 長所
    • サイクル戦では基本的に優位に立つことができる
    • 多くの技効果を無視し、奇襲的なアドバンテージを得ることができる
    • 戦術がシンプルであるため、実力や選出がダイレクトに結果に反映される
  • 短所
    • 対面で強いポケモン(素早さが高く、あまり不利な相手が居ないポケモン)に弱い
    • 積み*1サイクルに弱い(物にも因る)
    • 素早さが低いので、終盤の殴り合いには弱い

特にメガガルーラは強く、自分の攻撃力を上げるグロウパンチという技を使うだけで、役割論理の基本である「相手に対する有利対面」を作れなくなってしまう。いわば、「受けられない」のである。
その他、こちらが交換する隙を読んでメガルカリオが積み技(攻撃力を上げる技)を使うと誰も止められない、などサイクル戦自体が成り立たないケースも増えており、技威力の低下や攻撃力アップアイテムの削除も向かい風となって非常に厳しい環境になっている。

まとめ

このように現在は厳しい戦術である役割論理だが、サイクル戦の基礎をきっちり教えてくれるため、初心者にはお勧めである。また、自分はポケモンからは長らく離れていたが、このようにゲームシステムの穴を狙うような戦術が考えられ、そこそこまともに機能していることに感動を覚え、ポケモンを始めてしまった。

役割論理を始めとしたポケモンの奥深い戦術の数々は必ずやあなたのゲームデザインの参考になると思うので、是非一度、 wiki でもいいのでその世界に触れてみてほしい。

*1:能力を強化する技を使い、圧倒的なパワーで殴る構築