ワンハンド・マニピュレーション

コンシューマの場合、入力装置はほとんどの場合選択の余地が無い。十字キーと数個のボタンを併せ持った、所謂ゲームコントローラーである。しかし、PCゲームでは幾つかの入力形態が用意されており、開発者はそのうち一つを選んでゲームを作ることとなる。デバイスは大きく分けて三種類、マウス・キーボード・ゲームパッドだ。
ところが、あるだけ使えばいいというものでもない。コンシューマならテレビを付け端子を繋ぎ本体の電源を入れ「さあゲームするぞ」と意気込むものだが、PCの場合はそうでないケースも多い。特にFLASHゲームともなると、偶然発見してそのままちょっと遊んでみる、というシチュエーションが最も多くなるだろう。
そんな時に、貴方のゲームがマウスとキーボード、それも十数個のキーを複雑に使い分けるような操作を要求するようなものだったら、プレイヤーはどう思うだろうか。ネットサーフィンをしている多くのユーザはキーボードに手を置かずマウスだけを動かしているだろう。彼らがキーボードに手を置くのは、非常に多くのコストが掛かる。ゲームのプレイを諦めてしまうほどに。
そこで、是非ともワンハンド・マニピュレーション、即ち片手での操作を前提としてデザインしたゲーム製作について知っておきたい。これはユーザに煩わしい思いをさせないだけでなく、貴方のゲームをよりスマートかつ直感的に遊べるよう手助けしてくれることもある。

マウス・マニピュレーション

PCゲームだけが使える片手操作の必殺技、それがマウスによるマニピュレーションである。片手で全ての動作を完結できる他、高い精度で素早くカーソルを移動できるため効率的な操作が可能となる。
以下にマウスを使って行える動作の例を示す。

  • カーソル移動

マウスを握り、位置を移動させることによってカーソルを追従させ移動させる。基本動作の一つである。例えばキャラクターがカーソルを追いかけるように移動すれば、一気に上下左右キーを省略することが出来る。

  • 左クリック

マウスのメインアクションである。実行された際、カーソルがある地点に何らかのアクションを起こす。ボタンやキャラクターの移動、攻撃など可能な動作は多岐に渡る。又、コンピュータを使用したブラウジングにおける基本的な動作であるため、ユーザが直感的に理解しやすい。

  • ドラッグ&ドロップ

ある地点で左マウスボタンを押し下げ、そのままカーソルを移動し、別の地点でマウスボタンを離すという一連の動作をドラッグ&ドロップと言う。ゲームで使われる際はオブジェクトを「ピックアップする」という意味合いが生じるため、インベントリのアイテムを移動したり、フィールド上のキャラクターを別の地点に移したりといった動作に使うことが出来る。また、左クリックの長押しは溜め攻撃の意味合いも含めることが出来、弓矢を引いてボタンリリースで放つ、といった動作を用いるゲームも多い。

  • ダブルクリック

左クリックを素早く二回行う。エクスプローラでのファイルの起動に必須の動作であるが、ゲームで採用するケースは珍しい。ダブルクリックという動作はなかなか大変なので、攻撃するたびに求められては腱鞘炎になってしまうからだ。精々オプション的な操作として全体を選択したり、詳細を閲覧したりといった動作のために使うことが望ましい。というか無理に使う必要は無い。

  • 右クリック

禁断の右クリックである。貴方の開発しようとしているゲームがWindowsゲームなら怯むことはない、便利なサブボタンとして用いることが出来る。しかしFLASHゲームの場合、右クリックは存在しない。まずFLASHの仕様上右クリックするとメニューが出てしまうし、それを抑えてもMacにはそもそも右クリックが無い。
右クリックには基本的に左クリックをサポートする色んな動作を担わせることが出来る。武器の切り替えや特殊使用(スコープや殴る等)、或いは左クリックで決定・右クリックでキャンセルといった動作も可能である。ただし右クリックは左クリックに比べるとユーザに馴染みがないため、何に使うことが出来るのかきちんと示す必要がある。

  • マウスホイール

スクロールを担当するマウスの機能である。プラスとマイナスが1セットになっているため、プラス/マイナスの概念がある選択肢・メニューなどに用いられることが多い。FPSでは武器選択に使われたり、スコープのズームイン・アウトに使われたりもする。
注意したいのは、左クリックなどに比べてマウス移動との併用が難しいということである。手元のマウスを移動させながらホイール操作をしてみると良く分かる。そのためカーソルが頻繁に動くようなシチュエーションでは精密なホイール操作が行えないと思ったほうが良い。

  • ホイールクリック

ホイールボタンは実は押し下げることが出来る。知らない人も結構多い。FPSでは更に特殊な動作を行わせたり、スコープのON/OFFを切り替えたりするのに使われる。が、結構押しにくいので(押してみればわかるが)、どうしてもという場合を除いてあまり使わないほうが良いように思える。

  • 第三マウスボタン〜

ゲーミングマウスでは、三つ目以降のボタンが付いている場合もある。しかし付いていないマウスもあるため、当然ゲームに使用すべきではない。ただしキーバインドとして何らかの動作を割り当てられるようにしておくと、喜ばれるかもしれない。尚、マウスホイールの左右もこれに該当する。

キーボード・マニピュレーション

キーボードでのワンハンド・マニピュレーションを述べる。キーボードは非常に広い範囲を操作手段として使えるため、ワンハンドといってもいろんな場所を使うことが出来る。

  • アプローチ:本当に必要なキーか?

上下左右キーに加えてZキー、Xキー。標準的なゲームの操作方法である。が、待ってほしい。そのZキーやXキーは本当に必要だろうか。例えばアクションゲームなら、実は上下キーが空いているのでここに攻撃とジャンプを割り当てたっていい。Zキー・Xキーを使ってしまうと漏れなく両手操作となってしまうため、ユーザによっては煩わしく感じる人もいるかもしれない(自分がそうだが)。
ただし、逆に上下キーに割り当てると操作感がごちゃっとしたり押しにくかったりする場合もある。よく吟味した上で、それでも最適解が見つからない場合は「どちらでも」操作できるようにし、ユーザにゆだねるとよい。

  • アプローチ:ゲームシステム

シューティングゲームは上下左右で自機を移動し、Zキーで射撃する。よって片手で行うことは出来ない。……果たしてそうだろうか。「片手で操作出来る」というのは、ゲームシステムの根幹を左右しても良い重要なファクターである。例えば自機が自動的に射撃してくれれば、Zキーは必要ない。下キーを押している間だけ自機が相手の射撃を反射するとか、弾幕ではなく敵機に直接ぶつかれば倒せるとか、やりようは沢山ある。
片手で操作出来るゲームシステムを構築する、というのも立派なアプローチの一つである。これは同時にゲームのシンプル化にも繋がるため、上手くやれば思いがけず良質なゲームが作れるかもしれない。

  • アプローチ:キー配置の工夫

FPSでは、視点移動をマウスで行うため、自機の移動や武器の選択、その他のアクションを全てもう片方の手でやらなければいけない。そのため、キーバインドはデフォルトでとても洗練されている。まず、上下左右キーではなくWSADキーで移動する。上下左右キーはほとんどのキーボードで別のキーと離れた位置にあるが、WSADキーの場合は手を置いただけで自然とスペースキーとシフトキーに指が届く。コントロールキーも使用が可能だ(多くの場合、しゃがみキーはコントロールキーである)。その他にもQキーEキーFキーCキーあたりがよく使われたり、武器選択は1,2,3キーで行われる。
この工夫はコンシューマでも見られ、例えばNintendoDSではいくつかのRPGでLキーを決定ボタンとして使うことができ、左手だけで操作することが出来た。RPGやシミュレーションなどのんびりしたゲームはオプションとしてこの操作方法も用意しておくと喜ばれるかもしれない(しかも幸運なことに、上下左右キー+Z決定XキャンセルとWSADキー+SPACE決定SHIFTキャンセルはキーが被らないため、同時に有効に出来る)。

  • 気をつけたいこと

上下左右キー+Zキーという基本構成は、同時に「多くのユーザがまずその操作を試みる」という性質を持つ。WSADキー+SPACEキーという操作は特殊な分類であり、ユーザが自動的に把握することは不可能に近い。そして、彼らはマニュアルを読まないので──ゲーム内に盛り込むか、見やすい位置(FLASHゲームなら直下か横に)に操作方法を書いておくべきである。
また、アプローチ1で触れたように動きの激しいアクションゲームの場合必ずしもキーを一カ所に纏めることが最適解とは限らない。WSADキーを忙しく操作しながら小指でSHIFTキーをタップし射撃を行う、という行動は多くのユーザには無理である。

まとめ

ワンハンド・マニピュレーションは単純に操作が楽になりストレスを減らすだけでなく、ゲーム自体をとてもシンプルにしたり、応用すれば空いたスペースに更に拡張的な操作を盛り込むことが出来る。継続的に心がけることにより、作り出すプロダクトの平均的な操作感はきっと向上していくことだろう。